森海コラム
[動物博士の生きものがたり] 動物と植物の闘い②
太古の昔から、植物は多くの動物の食料となってきました。先月号では、植物の防衛作戦と、それに対抗して植物の苦味を避けたり、毒を無毒化したりするなどの能力を身につけた昆虫を紹介しましたが、今月は食べられる側の植物の反撃をとりあげます。 アカシアの木は、キリンに葉を食べられ始めると、渋味のタンニンという毒を増産して自己防衛します。同時に、傷口から化学物質を放出して、周囲のアカシアに“緊急警報”を発します。それを受け取ったアカシアもタンニンを増産して葉に送ります。キリンは、どの葉を食べても渋味が強くなり、その近くでは美味しい葉を食べることができなくなります。ですから、この警報の届いていない遠くまで移動しなければなりません。アカシアは共同防衛をしたわけです。 もっとすごいのは、この“緊急警報”で、葉を食べている昆虫の天敵を呼び寄せる植物です。先月も紹介した満井喬先生のホームページ(ドクトル・ミツイの生物学雑記帳)に、これらの例が紹介されています。 マメの葉は、ナミハダニに食べられると、揮発性物質を出してこのダニを食べるチリカブリダニを呼びます。アブラナ科の植物は、モンシロチョウの幼虫に食べられると揮発性物質を出して、この幼虫に寄生するハチを呼びます。トウモロコシも、ヨトウムシの幼虫に食べられると寄生するハチを呼びます。実験によると、葉に傷がついただけではダメで、ヨトウムシの唾液がつかないと揮発性物資が出ないそうです。 まさに敵の敵は味方です。しかし、植物は「考えて」揮発性物質を出しているわけではありません。警報で呼び寄せられる昆虫なども「助けに来る」わけではありません。単に餌や寄生する相手の存在を植物の警報で知って集まってくるだけです。 そして、前回紹介した植物の産毛「トライコーム」ですが、ナス科の植物がもつトライコームにも葉を食べたイモムシを食べてくれる昆虫を呼び寄せる成分があることがわかってきたそうです。 それぞれの生物が考えていないのに、このような連鎖が生じるのが、進化の中で形成される生態系なのです。自然界、恐るべし。 <一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。> 南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭を取った。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。 「森から海へ」評議員、NPO法人あーすわーむ代表理事。
[動物博士の生きものがたり] 動物と植物の闘い②
太古の昔から、植物は多くの動物の食料となってきました。先月号では、植物の防衛作戦と、それに対抗して植物の苦味を避けたり、毒を無毒化したりするなどの能力を身につけた昆虫を紹介しましたが、今月は食べられる側の植物の反撃をとりあげます。 アカシアの木は、キリンに葉を食べられ始めると、渋味のタンニンという毒を増産して自己防衛します。同時に、傷口から化学物質を放出して、周囲のアカシアに“緊急警報”を発します。それを受け取ったアカシアもタンニンを増産して葉に送ります。キリンは、どの葉を食べても渋味が強くなり、その近くでは美味しい葉を食べることができなくなります。ですから、この警報の届いていない遠くまで移動しなければなりません。アカシアは共同防衛をしたわけです。 もっとすごいのは、この“緊急警報”で、葉を食べている昆虫の天敵を呼び寄せる植物です。先月も紹介した満井喬先生のホームページ(ドクトル・ミツイの生物学雑記帳)に、これらの例が紹介されています。 マメの葉は、ナミハダニに食べられると、揮発性物質を出してこのダニを食べるチリカブリダニを呼びます。アブラナ科の植物は、モンシロチョウの幼虫に食べられると揮発性物質を出して、この幼虫に寄生するハチを呼びます。トウモロコシも、ヨトウムシの幼虫に食べられると寄生するハチを呼びます。実験によると、葉に傷がついただけではダメで、ヨトウムシの唾液がつかないと揮発性物資が出ないそうです。 まさに敵の敵は味方です。しかし、植物は「考えて」揮発性物質を出しているわけではありません。警報で呼び寄せられる昆虫なども「助けに来る」わけではありません。単に餌や寄生する相手の存在を植物の警報で知って集まってくるだけです。 そして、前回紹介した植物の産毛「トライコーム」ですが、ナス科の植物がもつトライコームにも葉を食べたイモムシを食べてくれる昆虫を呼び寄せる成分があることがわかってきたそうです。 それぞれの生物が考えていないのに、このような連鎖が生じるのが、進化の中で形成される生態系なのです。自然界、恐るべし。 <一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。> 南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭を取った。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。 「森から海へ」評議員、NPO法人あーすわーむ代表理事。
チャチャ日記18: 僕には2人の娘がいる。
僕には2人の娘がいる。 しかし、結婚して子供を産んだのは長女だけなので孫は一人しかいない。 名前をマナと言う。マナという言葉は太平洋の島々に住んでいるマオリ族が神秘的な自然の力という意味で使うそうだ。 長女はオーストラリアに住んでいるのでその名に親しみを感じたのだろう。 僕がマナと会うのは一年に一度の来日の時である。 孫娘が日本にやって来ると、僕ら夫婦はてんてこ舞いになる。 遊び盛りのマナのパワーは計りしれない。ハーフの子供のパワーは日本の子供の2倍あるのじゃないかと思うほどだ。 ゲームや虫捕り、海遊び、遊園地巡りや温泉旅行などなど、短い滞在時間を一時も無駄にするものかと遊び尽くすので妻も僕もへとへとになる。 そんなマナがオーストラリアに帰国する日、マナはとても悲しんでくれる。 スーツケースを運び出し、家の前で別れを告げる時、「帰りたくないよぉ~~」と言って一人一人とハグをする。 おばぁちゃんとハグして「ひぃばぁ~」と言って泣き、僕とハグして「じぃじぃ~」と言って泣き、僕の妻とハグして「ばぁばぁ~」と言って泣く。 そして、最後にチャチャとハグして「チャチャ~~」と言って泣くのだが、その時が一番長くて大声で泣くのだ。 僕と妻があれほど世話したのに、何よりも別れを惜しむのはチャチャだというところがなんとも複雑だ。 犬というのは不思議な存在だ。 単なるペットのはずなのに、いつの間にか友達になり、そして家族になり、もっとも愛おしい存在になってしまう。 97歳になるおばぁちゃんが乳癌になって自宅で療養した時もそうだった。 おばぁちゃんを自宅で看取るために僕は毎日泊まり込みで介護していたのだけど、チャチャを連れていった時が一番喜んだ。 「チャチャ~~」と言って抱きしめて、鼻にキスをしたりする。 チャチャの方は「何するの?」と戸惑った顔をするのだけど、おばぁちゃんはいつもとびきりの愛情表現をした。 どんなに辛いことがあっても、犬の無邪気な顔を見ていると心が癒される。 チャチャが来てから家の中が明るくなった気がする。チャチャが笑いと癒しを運んできてくれたのだ。 その後、おばぁちゃんの病状は悪化して、救急車で緊急搬送された。 病室に犬を連れて入ることはできないので、チャチャの写真を引き伸ばして寝ているおばぁちゃんからよく見える位置に貼ってあげた。 肺の中に水が溜まって息が苦しかったのに、チャチャの写真を見ると「可愛いねぇ~」と目を細めたおばぁちゃん。 1週間後に、おばぁちゃんは永遠の眠りについた。 お棺の中にたくさんのチャチャの写真を入れてあげた。 きっと天国でおばぁちゃんはチャチャの写真を見て「可愛いねぇ~」と呟き癒されているのじゃないだろうか。 そう考えるだけで僕の気持ちも少し楽になる。
チャチャ日記18: 僕には2人の娘がいる。
僕には2人の娘がいる。 しかし、結婚して子供を産んだのは長女だけなので孫は一人しかいない。 名前をマナと言う。マナという言葉は太平洋の島々に住んでいるマオリ族が神秘的な自然の力という意味で使うそうだ。 長女はオーストラリアに住んでいるのでその名に親しみを感じたのだろう。 僕がマナと会うのは一年に一度の来日の時である。 孫娘が日本にやって来ると、僕ら夫婦はてんてこ舞いになる。 遊び盛りのマナのパワーは計りしれない。ハーフの子供のパワーは日本の子供の2倍あるのじゃないかと思うほどだ。 ゲームや虫捕り、海遊び、遊園地巡りや温泉旅行などなど、短い滞在時間を一時も無駄にするものかと遊び尽くすので妻も僕もへとへとになる。 そんなマナがオーストラリアに帰国する日、マナはとても悲しんでくれる。 スーツケースを運び出し、家の前で別れを告げる時、「帰りたくないよぉ~~」と言って一人一人とハグをする。 おばぁちゃんとハグして「ひぃばぁ~」と言って泣き、僕とハグして「じぃじぃ~」と言って泣き、僕の妻とハグして「ばぁばぁ~」と言って泣く。 そして、最後にチャチャとハグして「チャチャ~~」と言って泣くのだが、その時が一番長くて大声で泣くのだ。 僕と妻があれほど世話したのに、何よりも別れを惜しむのはチャチャだというところがなんとも複雑だ。 犬というのは不思議な存在だ。 単なるペットのはずなのに、いつの間にか友達になり、そして家族になり、もっとも愛おしい存在になってしまう。 97歳になるおばぁちゃんが乳癌になって自宅で療養した時もそうだった。 おばぁちゃんを自宅で看取るために僕は毎日泊まり込みで介護していたのだけど、チャチャを連れていった時が一番喜んだ。 「チャチャ~~」と言って抱きしめて、鼻にキスをしたりする。 チャチャの方は「何するの?」と戸惑った顔をするのだけど、おばぁちゃんはいつもとびきりの愛情表現をした。 どんなに辛いことがあっても、犬の無邪気な顔を見ていると心が癒される。 チャチャが来てから家の中が明るくなった気がする。チャチャが笑いと癒しを運んできてくれたのだ。 その後、おばぁちゃんの病状は悪化して、救急車で緊急搬送された。 病室に犬を連れて入ることはできないので、チャチャの写真を引き伸ばして寝ているおばぁちゃんからよく見える位置に貼ってあげた。 肺の中に水が溜まって息が苦しかったのに、チャチャの写真を見ると「可愛いねぇ~」と目を細めたおばぁちゃん。 1週間後に、おばぁちゃんは永遠の眠りについた。 お棺の中にたくさんのチャチャの写真を入れてあげた。 きっと天国でおばぁちゃんはチャチャの写真を見て「可愛いねぇ~」と呟き癒されているのじゃないだろうか。 そう考えるだけで僕の気持ちも少し楽になる。
チャチャ日記17: 犬にはそれぞれ得意技がある。
犬にはそれぞれ得意技がある。 走るのが得意な犬、ジャンプするのが得意な犬、穴を掘るのが得意な犬、ボールを取って来るのが得意な犬、吠えるのが得意な犬・・・ 以前に飼っていた犬は吠えるのが得意であまりにもうるさくてノイローゼになりそうだったけれど、それもまた羊を集めるために人間が授けた能力だから仕方がない。 我が家のチャチャは臭いを嗅いだり穴を掘ったりボールを取ってくるのが得意だ。 元々ウサギなどの小動物を捕獲するために生まれたジャックラッセルテリアだからなのだと思う。散歩の時には臭いを嗅いでばかりでなかなか前に進まず困ってしまう。 そして、もう一つチャチャが得意なのが立ち上がることだ。 これまで飼ってきた犬は立ち上がることなど滅多になかったけれど、チャチャは興味があるとすぐに立ち上がる。 両手を前に揃えて立っているポーズはまるでアフリカの大地で天敵を偵察しているミーアキャットのようでとても可愛い。 そこで立ち上がる技をチャチャのお家芸にしようと考えた。 どんな犬でも(お座り)と(お手)はできる。だけどそれじゃ面白くない。オリジナリティがない。 そこで(気を付け!)と言うと立ち上がるようにチャチャに教えた。 鹿肉を与える時、まずは(お座り!)。 そして次に(気を付け!)と号令をかけるのだ。 チャチャは足が短いためお尻をペタッとつけて立つため安定感も抜群だ。 (気を付け)ポーズで10秒ほど静止した後(よしっ!)と声を掛けて鹿肉を食べさせる。 気を付けポーズで真剣に僕の目を見ている時のチャチャはまるで軍隊だ。 アイアイサー!と言わんばかりに胸を張っている。 この芸はウケる。誰が見ても可愛いと言って笑ってくれる。 そしてもう一つチャチャには立ち上がって抱きつく技もある。 誰も教えた訳ではないのに、ごく自然に毎回やってしまうチャチャの本能のような技だ。 たとえば、僕が出掛ける時「行ってきます。」と言って妻と軽くハグすると、チャチャが走ってきて僕らのハグに加わるのだ。 立ち上がってふくらはぎ辺りに抱き着いてハグするチャチャ。 犬用ベッドでうつらうつら寝てる時でも、ハグが始まると慌てて飛び起きて走ってきてハグに加わる。 「僕だって家族だよ!」と言わんばかりに必死なのである。 そんな時は「わかったわかった。おまえも大事なファミリーだ。」と言って、チャチャを僕と妻の間に挟んで「アイラブユー!!」ときつくハグしてあげる。そんな時のチャチャの顔は恍惚感溢れて本当に幸せそうである。 犬も子供も得意技を褒めて生かして育てると良い性格に育つのじゃないかと僕は思うのだ。
チャチャ日記17: 犬にはそれぞれ得意技がある。
犬にはそれぞれ得意技がある。 走るのが得意な犬、ジャンプするのが得意な犬、穴を掘るのが得意な犬、ボールを取って来るのが得意な犬、吠えるのが得意な犬・・・ 以前に飼っていた犬は吠えるのが得意であまりにもうるさくてノイローゼになりそうだったけれど、それもまた羊を集めるために人間が授けた能力だから仕方がない。 我が家のチャチャは臭いを嗅いだり穴を掘ったりボールを取ってくるのが得意だ。 元々ウサギなどの小動物を捕獲するために生まれたジャックラッセルテリアだからなのだと思う。散歩の時には臭いを嗅いでばかりでなかなか前に進まず困ってしまう。 そして、もう一つチャチャが得意なのが立ち上がることだ。 これまで飼ってきた犬は立ち上がることなど滅多になかったけれど、チャチャは興味があるとすぐに立ち上がる。 両手を前に揃えて立っているポーズはまるでアフリカの大地で天敵を偵察しているミーアキャットのようでとても可愛い。 そこで立ち上がる技をチャチャのお家芸にしようと考えた。 どんな犬でも(お座り)と(お手)はできる。だけどそれじゃ面白くない。オリジナリティがない。 そこで(気を付け!)と言うと立ち上がるようにチャチャに教えた。 鹿肉を与える時、まずは(お座り!)。 そして次に(気を付け!)と号令をかけるのだ。 チャチャは足が短いためお尻をペタッとつけて立つため安定感も抜群だ。 (気を付け)ポーズで10秒ほど静止した後(よしっ!)と声を掛けて鹿肉を食べさせる。 気を付けポーズで真剣に僕の目を見ている時のチャチャはまるで軍隊だ。 アイアイサー!と言わんばかりに胸を張っている。 この芸はウケる。誰が見ても可愛いと言って笑ってくれる。 そしてもう一つチャチャには立ち上がって抱きつく技もある。 誰も教えた訳ではないのに、ごく自然に毎回やってしまうチャチャの本能のような技だ。 たとえば、僕が出掛ける時「行ってきます。」と言って妻と軽くハグすると、チャチャが走ってきて僕らのハグに加わるのだ。 立ち上がってふくらはぎ辺りに抱き着いてハグするチャチャ。 犬用ベッドでうつらうつら寝てる時でも、ハグが始まると慌てて飛び起きて走ってきてハグに加わる。 「僕だって家族だよ!」と言わんばかりに必死なのである。 そんな時は「わかったわかった。おまえも大事なファミリーだ。」と言って、チャチャを僕と妻の間に挟んで「アイラブユー!!」ときつくハグしてあげる。そんな時のチャチャの顔は恍惚感溢れて本当に幸せそうである。 犬も子供も得意技を褒めて生かして育てると良い性格に育つのじゃないかと僕は思うのだ。
[動物博士の生きものがたり] 動物と植物の闘い①
南 正人著 この写真はなんだかわかりますか? そうです。オクラです。表面に細かな産毛のようなものが生えています。これは、トライコームと呼ばれるもので、さまざまな植物についていて、その機能も植物によって異なっています。それらの機能の一つは、植物を食べに来る小さな昆虫から体を守ることです。また、私たちのように大きな動物にとっても産毛の多い植物は食べにくく感じます。オクラを料理する際に包丁で表面を擦ってこの産毛を取って食べやすくします。ということは、この産毛の存在は、オクラを食べる動物にたくさん食べられないようにしているのだと思われます。 青首大根を大根おろしにしていただく場合、辛いのは根の方でしょうか、青首の方でしょうか。甘いのは収穫される時に地面から上にある青首の方です。それは、寒くて凍らないために糖分を蓄えているからです。では、根の方が辛いのはなぜでしょうか。これは、地面の中で昆虫等に食べられないように辛みを持っているのだと言われています。 植物は太古の昔からさまざまな昆虫やその祖先の格好の食物だったので、食べられないようにそれぞれの植物が防衛手段を発達させてきました。表面の細かな毛やネバネバの粘液、苦みや辛みなどの嫌な味や毒の成分等です。タバコの葉にあるニコチンや除虫菊のピレスリンはその代表で、人間はそれを抽出して殺虫剤に使ったりしているくらいです。 ところが、昆虫の方も負けてはいません。蝶や蛾の仲間には、自分がよく食べる植物の持つ毒を分解する能力を身につけた昆虫がいます。しかし、その分解力はその植物の毒にしか効かないので、その昆虫はその植物ばかり食べます。一方で、いろいろな植物を少しずつ食べることによって、植物ごとに異なる毒成分がそれぞれの致死量を超えないようにしている昆虫もいます。 理化学研究所の故満井喬先生はホームページ(ドクトル・ミツイの生物学雑記帳)で昆虫と植物のさまざまな闘いを紹介されていました。例えば、テントウムシの一種はウリの葉を食べる際に、まず葉の上で自分の回りに円形の溝を掘るそうです。ウリの葉には苦い成分が含まれていて、葉に傷がつくと苦い成分がどんどん合成されるそうです。しかし、あらかじめ溝を掘ってあるので、溝の外側で合成された苦い成分は入って来ないので、自分が食べている場所はそんなに苦くならないというのです。実験的に傷のついた葉のみを与えると、テントウムシの生存率や産卵数が下がるそうですから、この苦い成分は毒といってもよいでしょう。 今回のお話では、食べる側が一枚上手のように見えますが、来月は植物の反撃を取り上げます。 <一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。> 南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭を取った。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。「森から海へ」評議員、NPO法人あーすわーむ代表理事。
[動物博士の生きものがたり] 動物と植物の闘い①
南 正人著 この写真はなんだかわかりますか? そうです。オクラです。表面に細かな産毛のようなものが生えています。これは、トライコームと呼ばれるもので、さまざまな植物についていて、その機能も植物によって異なっています。それらの機能の一つは、植物を食べに来る小さな昆虫から体を守ることです。また、私たちのように大きな動物にとっても産毛の多い植物は食べにくく感じます。オクラを料理する際に包丁で表面を擦ってこの産毛を取って食べやすくします。ということは、この産毛の存在は、オクラを食べる動物にたくさん食べられないようにしているのだと思われます。 青首大根を大根おろしにしていただく場合、辛いのは根の方でしょうか、青首の方でしょうか。甘いのは収穫される時に地面から上にある青首の方です。それは、寒くて凍らないために糖分を蓄えているからです。では、根の方が辛いのはなぜでしょうか。これは、地面の中で昆虫等に食べられないように辛みを持っているのだと言われています。 植物は太古の昔からさまざまな昆虫やその祖先の格好の食物だったので、食べられないようにそれぞれの植物が防衛手段を発達させてきました。表面の細かな毛やネバネバの粘液、苦みや辛みなどの嫌な味や毒の成分等です。タバコの葉にあるニコチンや除虫菊のピレスリンはその代表で、人間はそれを抽出して殺虫剤に使ったりしているくらいです。 ところが、昆虫の方も負けてはいません。蝶や蛾の仲間には、自分がよく食べる植物の持つ毒を分解する能力を身につけた昆虫がいます。しかし、その分解力はその植物の毒にしか効かないので、その昆虫はその植物ばかり食べます。一方で、いろいろな植物を少しずつ食べることによって、植物ごとに異なる毒成分がそれぞれの致死量を超えないようにしている昆虫もいます。 理化学研究所の故満井喬先生はホームページ(ドクトル・ミツイの生物学雑記帳)で昆虫と植物のさまざまな闘いを紹介されていました。例えば、テントウムシの一種はウリの葉を食べる際に、まず葉の上で自分の回りに円形の溝を掘るそうです。ウリの葉には苦い成分が含まれていて、葉に傷がつくと苦い成分がどんどん合成されるそうです。しかし、あらかじめ溝を掘ってあるので、溝の外側で合成された苦い成分は入って来ないので、自分が食べている場所はそんなに苦くならないというのです。実験的に傷のついた葉のみを与えると、テントウムシの生存率や産卵数が下がるそうですから、この苦い成分は毒といってもよいでしょう。 今回のお話では、食べる側が一枚上手のように見えますが、来月は植物の反撃を取り上げます。 <一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。> 南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭を取った。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。「森から海へ」評議員、NPO法人あーすわーむ代表理事。
[動物博士の生きものがたり] 音の窓
南 正人 著 春になり、小鳥たちの囀りがよく聞かれる季節となりました。鳥によっては、小さな身体に見合わない大きな声で鳴いています。私たちも、運動会やスポーツ観戦などでいつもより大きな声を出して、すっかり疲れてしまった方もおられるでしょう。大きな声を出し続けるのは、案外、体力のいることです。 繁殖期、小鳥たちは小さな体に比べて大きな声を出し続けています。オスは、なわばりを宣言したり、メスに選ばれるために、必死になって歌うのです。しかし、他の音に邪魔されて、鳴き声が届かなかったら、「骨折り損のくたびれ儲け」です。そこで、鳥たちは、鳴くために使う体力が無駄にならないように、うるさいセミたちに邪魔されないように、セミが鳴かない早朝に鳴いています。 さらに、鳥たちは「音の窓」を使っていると言われています。木の葉は音を反射したり減衰させたりします。それぞれの森には、構成されている植物によって、邪魔される周波数(音域)と届きやすい周波数があります。届きやすい周波数は音の窓と呼ばれます。鳥たちはその「音の窓」の音域で鳴いているようです。地面や岩陰で鳴いていることが多いコオロギは、時には石の上で鳴きます。地面は音を吸収するので、地面から少し上で鳴くほうが遠くまで届くのです。そのかわり、外敵に狙われやすくなります。 クジラの声は、なんと海中数千キロメートルも届いているようです。ハワイ沖での録音に、南極のクジラの声が入っていたことがあるそうです。水中での音は空気中よりはるかに速く伝わります。さらに、海中には水深1000メートル付近に深海サウンドチャンネルと言われる「音の窓」があるのです。これは水温の低下と水圧の上昇によって起こる現象です。大きなクジラの出す超低音は、この「音の窓」を通って遠くまで届いているらしいのです。クジラはこんなに深くは潜れませんが、北極や南極では水温が低いために、この「音の窓」が水面近くまで広がるのです。 よく「歌う」といわれるザトウクジラでは、地域によって歌の特徴が異なっていたり、歌の流行があることも知られています。交配期に聞かれることから、オス同士の競争やメスへの誘惑に使われていると考えられています。海の中では想像を越えるスケールの恋の駆け引きが起こっているのかもしれません。 <一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。> 南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭を取った。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。「森から海へ」評議員、NPO法人あーすわーむ代表理事。
[動物博士の生きものがたり] 音の窓
南 正人 著 春になり、小鳥たちの囀りがよく聞かれる季節となりました。鳥によっては、小さな身体に見合わない大きな声で鳴いています。私たちも、運動会やスポーツ観戦などでいつもより大きな声を出して、すっかり疲れてしまった方もおられるでしょう。大きな声を出し続けるのは、案外、体力のいることです。 繁殖期、小鳥たちは小さな体に比べて大きな声を出し続けています。オスは、なわばりを宣言したり、メスに選ばれるために、必死になって歌うのです。しかし、他の音に邪魔されて、鳴き声が届かなかったら、「骨折り損のくたびれ儲け」です。そこで、鳥たちは、鳴くために使う体力が無駄にならないように、うるさいセミたちに邪魔されないように、セミが鳴かない早朝に鳴いています。 さらに、鳥たちは「音の窓」を使っていると言われています。木の葉は音を反射したり減衰させたりします。それぞれの森には、構成されている植物によって、邪魔される周波数(音域)と届きやすい周波数があります。届きやすい周波数は音の窓と呼ばれます。鳥たちはその「音の窓」の音域で鳴いているようです。地面や岩陰で鳴いていることが多いコオロギは、時には石の上で鳴きます。地面は音を吸収するので、地面から少し上で鳴くほうが遠くまで届くのです。そのかわり、外敵に狙われやすくなります。 クジラの声は、なんと海中数千キロメートルも届いているようです。ハワイ沖での録音に、南極のクジラの声が入っていたことがあるそうです。水中での音は空気中よりはるかに速く伝わります。さらに、海中には水深1000メートル付近に深海サウンドチャンネルと言われる「音の窓」があるのです。これは水温の低下と水圧の上昇によって起こる現象です。大きなクジラの出す超低音は、この「音の窓」を通って遠くまで届いているらしいのです。クジラはこんなに深くは潜れませんが、北極や南極では水温が低いために、この「音の窓」が水面近くまで広がるのです。 よく「歌う」といわれるザトウクジラでは、地域によって歌の特徴が異なっていたり、歌の流行があることも知られています。交配期に聞かれることから、オス同士の競争やメスへの誘惑に使われていると考えられています。海の中では想像を越えるスケールの恋の駆け引きが起こっているのかもしれません。 <一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。> 南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭を取った。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。「森から海へ」評議員、NPO法人あーすわーむ代表理事。
価格改定のお知らせ~2025年5月15日実施~
鹿のめぐみ綿のめぐみをご利用いただいている皆さまへ 平素より格別のご愛顧を賜り、誠にありがとうございます。 私達は「鹿の命の循環」「愛犬愛猫の健康」「美しい地球を未来に繋ぐ」、そんな環境保全の啓発に取り組む財団法人でございます。 そして、自然由来の国産鹿肉ペットフード「鹿のめぐみ」は、産地や生産者が分かる鹿肉,有機野菜,有機穀物など国産原料を使用し、肥満,偏食,アレルギー等で悩むワンちゃんやネコちゃんにオススメできる安心安全な食事として提供してまいりましたが、原材料費の高騰や輸送コストの増加が続いており、品質の維持を図るため、この度、やむを得ず価格の改定を決定いたしました。 お客様にご負担をおかけすることになりますが、引き続きご満足いただける品質の提供に努めてまいりますので、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。 <対象商品および改定価格>※2025年5月15日から適用開始・対象商品:旧価格→新価格(税抜)・鹿のめぐみドライフード100g:600円→780円・鹿のめぐみドライフード1kg:4,500円→5,900円・鹿のめぐみウェットフード:800円→1,000円・鹿のめぐみ野生鹿ジャーキー:1,300円→1,500円・綿のめぐみ小型犬用:4,300円→5,000円・綿のめぐみフレンチブルドッグ用タンクトップ:4,500円→5,700円・綿のめぐみフレンチブルドッグ用長袖Tシャツ:4,800円→7,000円・綿のめぐみウォッシャブルマット:8,000円→10,000円 <お客様へのご優遇措置>鹿のめぐみドライフード1kg定期購入につきましては、2025年5月15日~2025年11月14日の六ヶ月間、現行価格で提供させていただきます。※2025年5月14日までに購入開始された方に限ります ご不明な点がございましたら、事務局までお問い合わせくださいませ。今後とも変わらぬご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。
価格改定のお知らせ~2025年5月15日実施~
鹿のめぐみ綿のめぐみをご利用いただいている皆さまへ 平素より格別のご愛顧を賜り、誠にありがとうございます。 私達は「鹿の命の循環」「愛犬愛猫の健康」「美しい地球を未来に繋ぐ」、そんな環境保全の啓発に取り組む財団法人でございます。 そして、自然由来の国産鹿肉ペットフード「鹿のめぐみ」は、産地や生産者が分かる鹿肉,有機野菜,有機穀物など国産原料を使用し、肥満,偏食,アレルギー等で悩むワンちゃんやネコちゃんにオススメできる安心安全な食事として提供してまいりましたが、原材料費の高騰や輸送コストの増加が続いており、品質の維持を図るため、この度、やむを得ず価格の改定を決定いたしました。 お客様にご負担をおかけすることになりますが、引き続きご満足いただける品質の提供に努めてまいりますので、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。 <対象商品および改定価格>※2025年5月15日から適用開始・対象商品:旧価格→新価格(税抜)・鹿のめぐみドライフード100g:600円→780円・鹿のめぐみドライフード1kg:4,500円→5,900円・鹿のめぐみウェットフード:800円→1,000円・鹿のめぐみ野生鹿ジャーキー:1,300円→1,500円・綿のめぐみ小型犬用:4,300円→5,000円・綿のめぐみフレンチブルドッグ用タンクトップ:4,500円→5,700円・綿のめぐみフレンチブルドッグ用長袖Tシャツ:4,800円→7,000円・綿のめぐみウォッシャブルマット:8,000円→10,000円 <お客様へのご優遇措置>鹿のめぐみドライフード1kg定期購入につきましては、2025年5月15日~2025年11月14日の六ヶ月間、現行価格で提供させていただきます。※2025年5月14日までに購入開始された方に限ります ご不明な点がございましたら、事務局までお問い合わせくださいませ。今後とも変わらぬご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。