[動物博士の生きものがたり] 動物と植物の闘い①
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南 正人著
この写真はなんだかわかりますか? そうです。オクラです。表面に細かな産毛のようなものが生えています。これは、トライコームと呼ばれるもので、さまざまな植物についていて、その機能も植物によって異なっています。それらの機能の一つは、植物を食べに来る小さな昆虫から体を守ることです。また、私たちのように大きな動物にとっても産毛の多い植物は食べにくく感じます。オクラを料理する際に包丁で表面を擦ってこの産毛を取って食べやすくします。ということは、この産毛の存在は、オクラを食べる動物にたくさん食べられないようにしているのだと思われます。 青首大根を大根おろしにしていただく場合、辛いのは根の方でしょうか、青首の方でしょうか。甘いのは収穫される時に地面から上にある青首の方です。それは、寒くて凍らないために糖分を蓄えているからです。では、根の方が辛いのはなぜでしょうか。これは、地面の中で昆虫等に食べられないように辛みを持っているのだと言われています。
植物は太古の昔からさまざまな昆虫やその祖先の格好の食物だったので、食べられないようにそれぞれの植物が防衛手段を発達させてきました。表面の細かな毛やネバネバの粘液、苦みや辛みなどの嫌な味や毒の成分等です。タバコの葉にあるニコチンや除虫菊のピレスリンはその代表で、人間はそれを抽出して殺虫剤に使ったりしているくらいです。
ところが、昆虫の方も負けてはいません。蝶や蛾の仲間には、自分がよく食べる植物の持つ毒を分解する能力を身につけた昆虫がいます。しかし、その分解力はその植物の毒にしか効かないので、その昆虫はその植物ばかり食べます。一方で、いろいろな植物を少しずつ食べることによって、植物ごとに異なる毒成分がそれぞれの致死量を超えないようにしている昆虫もいます。
理化学研究所の故満井喬先生はホームページ(ドクトル・ミツイの生物学雑記帳)で昆虫と植物のさまざまな闘いを紹介されていました。例えば、テントウムシの一種はウリの葉を食べる際に、まず葉の上で自分の回りに円形の溝を掘るそうです。ウリの葉には苦い成分が含まれていて、葉に傷がつくと苦い成分がどんどん合成されるそうです。しかし、あらかじめ溝を掘ってあるので、溝の
外側で合成された苦い成分は入って来ないので、自分が食べている場所はそんなに苦くならないというのです。実験的に傷のついた葉のみを与えると、テントウムシの生存率や産卵数が下がるそうですから、この苦い成分は毒といってもよいでしょう。
今回のお話では、食べる側が一枚上手のように見えますが、来月は植物の反撃を取り上げます。

<一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。>
南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行っ
た後、麻布大学で13年間教鞭を取った。宮城県の離島・金華山でシカの研究を
35年間続けている。「森から海へ」評議員、NPO法人あーすわーむ代表理事。