森海コラム

チャチャ日記14

チャチャ日記14

僕にはぎっくり腰という持病がある。 重たい荷物を持った時やくしゃみをした時に突然ギクッと腰に痛みが走って動けなくなることがよくあるのだ。 昨年は北アルプス縦走中に標高3000mの山小屋で(ギクッ)と来てしまい大ゴトになった。 幸い僕の友人が僕の荷物を全て担いでくれたためなんとか下山できたけど、動けないままだったらヘリコプターを呼ぶところだった(汗)。 ギックリ腰になりたくないので立ち上がる時やくしゃみする時は特に気を付けているのだけど、近頃ははっきりした理由もないのに前触れなく(ギクッ)と来ることがある。 こうなるともうどうしようもない。原因は老化なのかもしれない。 ギックリ腰になったら安静にしているのが一番いいと医者は言うが、どんなに体調不良でもチャチャの散歩タイムはやって来るのだ。 「今日は腰が痛いから行けないんだ。」などとチャチャに話し掛けても「そんなの関係ない!!」「早く行こう行こう!!」と尻尾を振るチャチャに急かされて、止む無く腰痛バンドを巻き付け朝の散歩に出掛けることになる。 運動を欠かせないジャックラッセルテリアを飼っしまった宿命である。 ギックリ腰は筋肉や筋が硬くなることが原因で起こるという。 僕はもともと体が硬いのだが、最近はさらに体が固くなっていると感じる。 そのためできるだけ柔軟運動をした方がいいのだけど、僕は柔軟運動が大の苦手。 筋トレやウォーキングには前向きに取り組めても、静かに筋を伸ばしながらじっとしていることができない。 ヨガなどやってもすぐに飽きてしまう。 泳ぎ続けているマグロのような性格なのですぐに別の行動を起こしたくなってしまうのだ。 ところが最近、柔軟運動の良い方法を思い付いた。それはチャチャの散歩中にやることだ。 毎回毎回チャチャはあっちの電信柱、こっちの植え込みで臭いを嗅ぎながら歩く。 そんなチャチャにいつもいらだっていたのだけど「この待ち時間を有効に使えばいい!」と閃いたのだ。 チャチャが臭いを嗅ぎ始めたら僕も足を伸ばしたり腰を伸ばしたり体をひねったりする。 ただ待つ時間は退屈だけど、柔軟タイムだと思うとあっという間に時間は過ぎてしまう。最近ではチャチャの臭い嗅ぎタイムが短いと感じることさえある。 「もう嗅がないのかよ?俺はもう少し足を伸ばしてるぜ!」 そう語り掛けチャチャを待たせることもしばしば。 チャチャが僕の方を見上げながら「まだやってるの?遅いなぁ~」というような顔をする。 チャチャも待つ人の気持ちが少しはわかっただろう。 待たせる側と待つ側、いつの間にか立場が逆転している。 朝の散歩タイムは持ちつ持たれつ。 お互いの健康管理にとても役立つ友情時間なのである。

チャチャ日記14

僕にはぎっくり腰という持病がある。 重たい荷物を持った時やくしゃみをした時に突然ギクッと腰に痛みが走って動けなくなることがよくあるのだ。 昨年は北アルプス縦走中に標高3000mの山小屋で(ギクッ)と来てしまい大ゴトになった。 幸い僕の友人が僕の荷物を全て担いでくれたためなんとか下山できたけど、動けないままだったらヘリコプターを呼ぶところだった(汗)。 ギックリ腰になりたくないので立ち上がる時やくしゃみする時は特に気を付けているのだけど、近頃ははっきりした理由もないのに前触れなく(ギクッ)と来ることがある。 こうなるともうどうしようもない。原因は老化なのかもしれない。 ギックリ腰になったら安静にしているのが一番いいと医者は言うが、どんなに体調不良でもチャチャの散歩タイムはやって来るのだ。 「今日は腰が痛いから行けないんだ。」などとチャチャに話し掛けても「そんなの関係ない!!」「早く行こう行こう!!」と尻尾を振るチャチャに急かされて、止む無く腰痛バンドを巻き付け朝の散歩に出掛けることになる。 運動を欠かせないジャックラッセルテリアを飼っしまった宿命である。 ギックリ腰は筋肉や筋が硬くなることが原因で起こるという。 僕はもともと体が硬いのだが、最近はさらに体が固くなっていると感じる。 そのためできるだけ柔軟運動をした方がいいのだけど、僕は柔軟運動が大の苦手。 筋トレやウォーキングには前向きに取り組めても、静かに筋を伸ばしながらじっとしていることができない。 ヨガなどやってもすぐに飽きてしまう。 泳ぎ続けているマグロのような性格なのですぐに別の行動を起こしたくなってしまうのだ。 ところが最近、柔軟運動の良い方法を思い付いた。それはチャチャの散歩中にやることだ。 毎回毎回チャチャはあっちの電信柱、こっちの植え込みで臭いを嗅ぎながら歩く。 そんなチャチャにいつもいらだっていたのだけど「この待ち時間を有効に使えばいい!」と閃いたのだ。 チャチャが臭いを嗅ぎ始めたら僕も足を伸ばしたり腰を伸ばしたり体をひねったりする。 ただ待つ時間は退屈だけど、柔軟タイムだと思うとあっという間に時間は過ぎてしまう。最近ではチャチャの臭い嗅ぎタイムが短いと感じることさえある。 「もう嗅がないのかよ?俺はもう少し足を伸ばしてるぜ!」 そう語り掛けチャチャを待たせることもしばしば。 チャチャが僕の方を見上げながら「まだやってるの?遅いなぁ~」というような顔をする。 チャチャも待つ人の気持ちが少しはわかっただろう。 待たせる側と待つ側、いつの間にか立場が逆転している。 朝の散歩タイムは持ちつ持たれつ。 お互いの健康管理にとても役立つ友情時間なのである。

【動物博士の生きものがたり】好物はカモそれぞれ

【動物博士の生きものがたり】好物はカモそれぞれ

 冬になると、郊外のちょっとした池や川にカモが浮いているのを見ることができます。カモの多くは冬季に日本にやってきます。一見同じように見えますが、カモには多くの種類があり、生活もさまざまです。種類によって主食も異なります。  カワアイサやウミアイサなどアイサ類とよばれる仲間は、魚が主食です。魚を捕るために水中に潜ります。潜って魚を追うため、体もスリムです。  スズガモやキンクロハジロなど海ガモ(潜水ガモ)と呼ばれる仲間は、水中に潜って、主に水草や貝を採ります。海で見ることが多いのですが、河川や湖沼にもやってきます。水面に浮いている際は重心が低く、水の上に尾羽が出ないのが特徴です。  一方、マガモやカルガモなど淡水ガモと呼ばれる仲間は、主に水面で餌を採ります。食物を水ごと吸い込んで、嘴(くちばし)の横から水を排出しながら濃しとって食べています。体の大きさの割に軽いので、潜るのが得意ではありません。水面上に体の多くが出ており、尾羽も水面上に出ています。 この仲間のハシビロガモは平べったい大きな嘴をしています。大きな嘴で水面に浮かぶ小さな植物片などを大量に濃しとるので、他のカモが食べないような小さな餌があれば生きていけます。一方、他のカモよりも小さなコガモという種類は、水面上のやや大きな餌をついばむこともします。 淡水ガモは、水面の餌が少ない時は、逆立ちをして、首を水中に伸ばして水草を食べます。オナガガモは、首も尾も長いので、逆立ちをして長い首を活かして他の淡水ガモよりも深いところにある水草を採ることができます。長い尾は、逆立ちをする際に、バランスを取るのに使われます。  様々な種類のカモが、同じものを同じように食べていれば、厳しい競争になってしまうでしょう。他のカモとは異なった物を食べ、異なった食べ方をすることで、同じ場所に居てもこうして共存できるのです。 <一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。> 南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭を取った。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。「森から海へ」評議員、NPO法人あーすわーむ代表理事。

【動物博士の生きものがたり】好物はカモそれぞれ

 冬になると、郊外のちょっとした池や川にカモが浮いているのを見ることができます。カモの多くは冬季に日本にやってきます。一見同じように見えますが、カモには多くの種類があり、生活もさまざまです。種類によって主食も異なります。  カワアイサやウミアイサなどアイサ類とよばれる仲間は、魚が主食です。魚を捕るために水中に潜ります。潜って魚を追うため、体もスリムです。  スズガモやキンクロハジロなど海ガモ(潜水ガモ)と呼ばれる仲間は、水中に潜って、主に水草や貝を採ります。海で見ることが多いのですが、河川や湖沼にもやってきます。水面に浮いている際は重心が低く、水の上に尾羽が出ないのが特徴です。  一方、マガモやカルガモなど淡水ガモと呼ばれる仲間は、主に水面で餌を採ります。食物を水ごと吸い込んで、嘴(くちばし)の横から水を排出しながら濃しとって食べています。体の大きさの割に軽いので、潜るのが得意ではありません。水面上に体の多くが出ており、尾羽も水面上に出ています。 この仲間のハシビロガモは平べったい大きな嘴をしています。大きな嘴で水面に浮かぶ小さな植物片などを大量に濃しとるので、他のカモが食べないような小さな餌があれば生きていけます。一方、他のカモよりも小さなコガモという種類は、水面上のやや大きな餌をついばむこともします。 淡水ガモは、水面の餌が少ない時は、逆立ちをして、首を水中に伸ばして水草を食べます。オナガガモは、首も尾も長いので、逆立ちをして長い首を活かして他の淡水ガモよりも深いところにある水草を採ることができます。長い尾は、逆立ちをする際に、バランスを取るのに使われます。  様々な種類のカモが、同じものを同じように食べていれば、厳しい競争になってしまうでしょう。他のカモとは異なった物を食べ、異なった食べ方をすることで、同じ場所に居てもこうして共存できるのです。 <一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。> 南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭を取った。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。「森から海へ」評議員、NPO法人あーすわーむ代表理事。

チャチャ日記13

チャチャ日記13

犬にしつけをする時や芸を教える時、鹿肉ジャーキーはとても役に立ちます。 わずか1センチ程度のジャーキーでも犬にとっては最高のご馳走。鹿肉ジャーキーほしさに色々な芸を思い出してくれる。 しかし、どうしても覚えられない、おやつを上げても直せない癖が1つあるのだ。 それは吠え癖だ。 吠え癖だけはなかなか治らないものだと思います。 吠えることは犬の本能なので犬自身が止めようと思っても止まらない。 体が自然に反応してしまうシャックリみたいなものじゃないかと思います。 ドッグランに行くとよく吠える犬がいる。吠え癖のある犬がチャチャに走り寄ってきても、チャチャが一緒に吠えることはない。 「なに興奮してるの?」という顔をして見つめるだけだ。 先ほど、散歩の時に出会った白と黒の2匹のプードルがまたよく吠えます。 チャチャと出会って興奮してキャンキャン吠えるのだ。 こんな時でもチャチャは何も言わない。 犬の飼い主は「ダメですよ、ここは住宅街なん悲しい、吠えると迷惑になるんですよ。」などと犬に語り掛けている。 その諭し方も気の利いたものかと思うが、これまであの手この手でトライして直らなかったので諦めている雰囲気だ。 犬を叱るというより周辺の住民に言い訳をしている叱り方があるので。 以前に僕が飼っていたシェットランドシープドッグのチャッピーもよく吠えた。 ひたすら厳しくしつけてもチャッピーは吠え出したら止まらなかった。 特にドアのチャイムが鳴った時や電話が鳴った時は大騒ぎとなった。 チャッピーは吠えてますます興奮して家中を吠えながら走り返しました。 あげくの果てに宅急便のお兄さんのお尻に悶えたこともある。 興奮しすぎてベランダから落ちて1階の水道の蛇口を破壊したこともありました。 全身打撲のはずなのに、さらに吠え続けて芝生の上を走りながら吠え続けた。 ある時、チャッピーの吠え癖を止めるため新軍事ワンストップを導入したことがある。 しかし、それも効果がなかった。 素直に冷静に語り続けチャッピーを見て、本当に可哀想になり電気首輪は1ヶ月程で外した。 シェットランドシープドッグは吠えながら羊を泣く犬だから仕方ないのだと諦めた。 その点、チャチャは本当にありがたい。たまに吠える時も「」のひと言だけである。夜遅くに僕が帰りドアを開けた瞬間に「ワン!」ひと声だけ吠える。 そして、尻尾を振って駆け寄ってくるチャチャは可愛いのだ。 妻も母も「あまり吠えないからチャチャの鳴き声忘れちゃったよ。」などと言う。 チャチャのルーツはイギリスである。...

チャチャ日記13

犬にしつけをする時や芸を教える時、鹿肉ジャーキーはとても役に立ちます。 わずか1センチ程度のジャーキーでも犬にとっては最高のご馳走。鹿肉ジャーキーほしさに色々な芸を思い出してくれる。 しかし、どうしても覚えられない、おやつを上げても直せない癖が1つあるのだ。 それは吠え癖だ。 吠え癖だけはなかなか治らないものだと思います。 吠えることは犬の本能なので犬自身が止めようと思っても止まらない。 体が自然に反応してしまうシャックリみたいなものじゃないかと思います。 ドッグランに行くとよく吠える犬がいる。吠え癖のある犬がチャチャに走り寄ってきても、チャチャが一緒に吠えることはない。 「なに興奮してるの?」という顔をして見つめるだけだ。 先ほど、散歩の時に出会った白と黒の2匹のプードルがまたよく吠えます。 チャチャと出会って興奮してキャンキャン吠えるのだ。 こんな時でもチャチャは何も言わない。 犬の飼い主は「ダメですよ、ここは住宅街なん悲しい、吠えると迷惑になるんですよ。」などと犬に語り掛けている。 その諭し方も気の利いたものかと思うが、これまであの手この手でトライして直らなかったので諦めている雰囲気だ。 犬を叱るというより周辺の住民に言い訳をしている叱り方があるので。 以前に僕が飼っていたシェットランドシープドッグのチャッピーもよく吠えた。 ひたすら厳しくしつけてもチャッピーは吠え出したら止まらなかった。 特にドアのチャイムが鳴った時や電話が鳴った時は大騒ぎとなった。 チャッピーは吠えてますます興奮して家中を吠えながら走り返しました。 あげくの果てに宅急便のお兄さんのお尻に悶えたこともある。 興奮しすぎてベランダから落ちて1階の水道の蛇口を破壊したこともありました。 全身打撲のはずなのに、さらに吠え続けて芝生の上を走りながら吠え続けた。 ある時、チャッピーの吠え癖を止めるため新軍事ワンストップを導入したことがある。 しかし、それも効果がなかった。 素直に冷静に語り続けチャッピーを見て、本当に可哀想になり電気首輪は1ヶ月程で外した。 シェットランドシープドッグは吠えながら羊を泣く犬だから仕方ないのだと諦めた。 その点、チャチャは本当にありがたい。たまに吠える時も「」のひと言だけである。夜遅くに僕が帰りドアを開けた瞬間に「ワン!」ひと声だけ吠える。 そして、尻尾を振って駆け寄ってくるチャチャは可愛いのだ。 妻も母も「あまり吠えないからチャチャの鳴き声忘れちゃったよ。」などと言う。 チャチャのルーツはイギリスである。...

【動物博士の生きものがたり】動物が群れる理由、群れない理由

【動物博士の生きものがたり】動物が群れる理由、群れない理由

動物には、大きな群れで生活しているものも、単独で生活しているものもいます。なぜでしょうか。草食の動物を例に紹介します。  草食動物は肉食動物に見つからないよう隠れなくてはなりません。森に住む草食動物は、木々の間に潜んで隠れますが、大きな群れだと誰かが見つかって襲われやすいので、小さな群れか、単独で生活するのがよいのです。  また、森の中で隠れて棲むには、小さな体の方が有利です。ところが、体が小さいと体積の割に表面積が大きいので、熱がすぐ逃げてしまいます。体温維持のためには、栄養価の高いものを効率的に食べなくてはなりません。ドングリや果物など、栄養価が高い実がなる木は、森の中に散らばっています。栄養価の高い木の葉は食べられるとすぐには再生しません。大きな群れだと、すぐに食べ尽してしまいますが、小さな群れや単独で生活していれば、資源を持続可能な形で使っていけます。このように、食料事情の面からも、森の中では小さな群れか単独が良いのです。ほぼ単独で生活するニホンリスやニホンカモシカはその典型です。  一方、草原に棲む草食動物の場合はどうでしょう。アフリカの草原にいるシマウマやヌーなど草丈より大きい動物は、すぐ肉食動物に見つかってしまいます。そこで、群れることで目を多くして、肉食動物を早く見つけて逃げることが必要になります。群れていれば、もし見つかって襲われても、自分が助かる確率は高くなります。草の栄養価は高くありませんが、大量にどこにでもありますから、大きな群れでも大丈夫です。また、草は消化しにくいので、大量に食べてお腹に溜め、ゆっくり消化するしかありません。そうすると体は大きくなり、ますます隠れることができないので、群れることになるのです。  こうした理由で、森林にいる動物は「小型」で、「単独」か「小さな群れ」となり、草原にいる動物は比較的「大型」で、大きな「群れ」となるのです。 <一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。> 南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭を取った。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。「森から海へ」評議員、NPO法人あーすわーむ代表理事。

【動物博士の生きものがたり】動物が群れる理由、群れない理由

動物には、大きな群れで生活しているものも、単独で生活しているものもいます。なぜでしょうか。草食の動物を例に紹介します。  草食動物は肉食動物に見つからないよう隠れなくてはなりません。森に住む草食動物は、木々の間に潜んで隠れますが、大きな群れだと誰かが見つかって襲われやすいので、小さな群れか、単独で生活するのがよいのです。  また、森の中で隠れて棲むには、小さな体の方が有利です。ところが、体が小さいと体積の割に表面積が大きいので、熱がすぐ逃げてしまいます。体温維持のためには、栄養価の高いものを効率的に食べなくてはなりません。ドングリや果物など、栄養価が高い実がなる木は、森の中に散らばっています。栄養価の高い木の葉は食べられるとすぐには再生しません。大きな群れだと、すぐに食べ尽してしまいますが、小さな群れや単独で生活していれば、資源を持続可能な形で使っていけます。このように、食料事情の面からも、森の中では小さな群れか単独が良いのです。ほぼ単独で生活するニホンリスやニホンカモシカはその典型です。  一方、草原に棲む草食動物の場合はどうでしょう。アフリカの草原にいるシマウマやヌーなど草丈より大きい動物は、すぐ肉食動物に見つかってしまいます。そこで、群れることで目を多くして、肉食動物を早く見つけて逃げることが必要になります。群れていれば、もし見つかって襲われても、自分が助かる確率は高くなります。草の栄養価は高くありませんが、大量にどこにでもありますから、大きな群れでも大丈夫です。また、草は消化しにくいので、大量に食べてお腹に溜め、ゆっくり消化するしかありません。そうすると体は大きくなり、ますます隠れることができないので、群れることになるのです。  こうした理由で、森林にいる動物は「小型」で、「単独」か「小さな群れ」となり、草原にいる動物は比較的「大型」で、大きな「群れ」となるのです。 <一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。> 南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭を取った。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。「森から海へ」評議員、NPO法人あーすわーむ代表理事。

【動物博士の生きものがたり】オシドリはおしどり夫婦ではない

【動物博士の生きものがたり】オシドリはおしどり夫婦ではない

仲の良い夫婦をおしどり夫婦と呼びますが、実はオシドリはおしどり夫婦ではありません。子育てが始まると、雄は別の新しい伴侶を求めて去ってゆきます。  小鳥たちでは、卵から孵った雛は目も開いておらず、羽毛もほとんど生えていません。雛は自分では餌を取ることができません。雛の羽毛が生え揃うまで親鳥が雛を抱いて温め、餌を与えます。  ところが、カモやチドリの仲間では、雛は卵から孵った段階ですでに目も開き羽毛も生えそろって、まるで毛玉のように見えます。毎年初夏の風物詩のように報道されるカルガモの親子の行進を思い浮かべていただければ、羽毛の雛をご理解いただけるでしょう。雛は生まれてすぐに自力で移動できるし、餌をついばむこともできるのです。親の役割は、餌のあるところに雛を連れて行くことと、雛を外敵から守ることです。 オシドリの場合も子育ては片親でもなんとかなるのです。いかに自分の子孫をたくさん残すかと考えた時、子供たちの養育をペアの相手に押し付けて、自分はもう一度繁殖すれば、もっとたくさんの自分の子供を残せます。もし自分が手伝わないことで1回目の子供がキツネに少々食べられてしまっても、次の繁殖でそれを上回る子供が残れば良いのです。オシドリの場合、雌が卵を抱き始めると雄はサヨナラしてしまうのです。そして、雄は次の繁殖相手の雌を探し始めるのです。 オシドリでは、雄は雌に自分の魅力を伝えるために派手な色をしていますが、雌は雄に比べるとずっと地味な色をしています。できるだけ外敵に見つからないようにすることで、自分と雛たちの危険を少なくしようとしているのです。  雄の協力なしでヒナを育てる雌は大変ですが、オシドリの場合、雛も大変です。オシドリの巣は、木の高いところの穴にあって、お腹が減っても母親は餌を運んできてくれません。母親は、木の下で巣立ちを促すようにピーピー鳴くだけです。卵から孵ってまだ24時間以内の雛たちは、ペンギンのような小さな翼を必死に動かしながら、時には地上5mもの高さから落下して行くのです。それが、巣穴から新しい世界への旅立ちなのです。 <一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。> 南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭を取った。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。「森から海へ」評議員、NPO法人あーすわーむ代表理事。

【動物博士の生きものがたり】オシドリはおしどり夫婦ではない

仲の良い夫婦をおしどり夫婦と呼びますが、実はオシドリはおしどり夫婦ではありません。子育てが始まると、雄は別の新しい伴侶を求めて去ってゆきます。  小鳥たちでは、卵から孵った雛は目も開いておらず、羽毛もほとんど生えていません。雛は自分では餌を取ることができません。雛の羽毛が生え揃うまで親鳥が雛を抱いて温め、餌を与えます。  ところが、カモやチドリの仲間では、雛は卵から孵った段階ですでに目も開き羽毛も生えそろって、まるで毛玉のように見えます。毎年初夏の風物詩のように報道されるカルガモの親子の行進を思い浮かべていただければ、羽毛の雛をご理解いただけるでしょう。雛は生まれてすぐに自力で移動できるし、餌をついばむこともできるのです。親の役割は、餌のあるところに雛を連れて行くことと、雛を外敵から守ることです。 オシドリの場合も子育ては片親でもなんとかなるのです。いかに自分の子孫をたくさん残すかと考えた時、子供たちの養育をペアの相手に押し付けて、自分はもう一度繁殖すれば、もっとたくさんの自分の子供を残せます。もし自分が手伝わないことで1回目の子供がキツネに少々食べられてしまっても、次の繁殖でそれを上回る子供が残れば良いのです。オシドリの場合、雌が卵を抱き始めると雄はサヨナラしてしまうのです。そして、雄は次の繁殖相手の雌を探し始めるのです。 オシドリでは、雄は雌に自分の魅力を伝えるために派手な色をしていますが、雌は雄に比べるとずっと地味な色をしています。できるだけ外敵に見つからないようにすることで、自分と雛たちの危険を少なくしようとしているのです。  雄の協力なしでヒナを育てる雌は大変ですが、オシドリの場合、雛も大変です。オシドリの巣は、木の高いところの穴にあって、お腹が減っても母親は餌を運んできてくれません。母親は、木の下で巣立ちを促すようにピーピー鳴くだけです。卵から孵ってまだ24時間以内の雛たちは、ペンギンのような小さな翼を必死に動かしながら、時には地上5mもの高さから落下して行くのです。それが、巣穴から新しい世界への旅立ちなのです。 <一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。> 南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭を取った。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。「森から海へ」評議員、NPO法人あーすわーむ代表理事。

【動物博士の生きものがたり】動物も感極まるのか

【動物博士の生きものがたり】動物も感極まるのか

 宮城県の離島できれいな夕焼けに出合いました。太陽が対岸の牡鹿半島に沈みつつありました。その時、ニホンザルが次々にやってきて、海辺の崖に設置された手すりに座ったのです。そして、みんなで夕焼けを見ているのです。 サルは十頭以上。後ろ姿しか見えないので、本当に夕焼けを見ているのかわからないのですが、どのサルも顔は夕焼けの方向に向けています。その状態が、暗くなるまで五分以上続きました。 発情期にメスのお尻が赤くなることから、ニホンザルは色が見えると言われています。私には、彼らが夕焼けを見て、何かを感じていたように思えてなりません。同様の観察はチンパンジーにもあります。京都大学におられた鈴木晃さんは、タンザニアで一頭の若いチンパンジーが、高い木に登って、暗くなるまで夕陽を眺めているのを観察しています。  動物の中でも、チンパンジーには高度な感情があるといわれています。京都大学名誉教授の杉山幸丸さんは、ギニアの森で、チンパンジーの群れがイチジクの実を食べようとするところを観察しました。イチジクの木は大木で、幹が太すぎて、チンパンジーには登れません。そこで、近くの木の枝を折りとって、イチジクの枝をたぐり寄せようと試みたのです。 何頭かが失敗した後、五十分ほど経って、ついに一頭がイチジクの枝を掴むことに成功しました。そのチンパンジーは「ケャーッ」と声をあげながら木に登ると、イチジクを食べることも忘れて、興奮して樹上を走り回ったのです。その後、全員が登ることができて、チンパンジーたちは樹上でひしひしと抱き合ったり、走り回ったりの大騒ぎになったそうです。彼らは感激の絶頂に達したのです。  私たち人間だけが感情を持つ特殊な生き物だと思うより、多くの動物にも感情があることを忘れないようにしたいものです。 <一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。> 南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭を取った。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。「森から海へ」評議員、NPO法人あーすわーむ代表理事。

【動物博士の生きものがたり】動物も感極まるのか

 宮城県の離島できれいな夕焼けに出合いました。太陽が対岸の牡鹿半島に沈みつつありました。その時、ニホンザルが次々にやってきて、海辺の崖に設置された手すりに座ったのです。そして、みんなで夕焼けを見ているのです。 サルは十頭以上。後ろ姿しか見えないので、本当に夕焼けを見ているのかわからないのですが、どのサルも顔は夕焼けの方向に向けています。その状態が、暗くなるまで五分以上続きました。 発情期にメスのお尻が赤くなることから、ニホンザルは色が見えると言われています。私には、彼らが夕焼けを見て、何かを感じていたように思えてなりません。同様の観察はチンパンジーにもあります。京都大学におられた鈴木晃さんは、タンザニアで一頭の若いチンパンジーが、高い木に登って、暗くなるまで夕陽を眺めているのを観察しています。  動物の中でも、チンパンジーには高度な感情があるといわれています。京都大学名誉教授の杉山幸丸さんは、ギニアの森で、チンパンジーの群れがイチジクの実を食べようとするところを観察しました。イチジクの木は大木で、幹が太すぎて、チンパンジーには登れません。そこで、近くの木の枝を折りとって、イチジクの枝をたぐり寄せようと試みたのです。 何頭かが失敗した後、五十分ほど経って、ついに一頭がイチジクの枝を掴むことに成功しました。そのチンパンジーは「ケャーッ」と声をあげながら木に登ると、イチジクを食べることも忘れて、興奮して樹上を走り回ったのです。その後、全員が登ることができて、チンパンジーたちは樹上でひしひしと抱き合ったり、走り回ったりの大騒ぎになったそうです。彼らは感激の絶頂に達したのです。  私たち人間だけが感情を持つ特殊な生き物だと思うより、多くの動物にも感情があることを忘れないようにしたいものです。 <一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。> 南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭を取った。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。「森から海へ」評議員、NPO法人あーすわーむ代表理事。