森のおはなし2 ー 一粒のタネ ー

 春の風が吹くと、森にも春がやってきます。

 まだ、木々が緑の葉を広げる前、太陽の光は森の地面に届き森の土を温めてくれます。温かくなった地面から草が芽吹き、花が咲き始めます。その草花の間をよく見るとありました!昨年の秋に土に落ちた一粒のタネが新しい芽を出しています。   

 

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 この発芽した1歳を「実生ーみしょうー」と呼びます。見上げるような大樹も、森の中間層を彩る中低木も全ては等しく1歳から始まります。

 この1歳たちも既に生きるための戦いが始まっています。戦いと言っても相手を倒す戦いではありません。植物はタネが落ちたその場所、あるいは運ばれた場所で根を張りそこで暮らしていく、出たとこ勝負!

 せっかく発芽したけれど、草たちの育つスピードの方が早くて、芽の上を覆われてしまったならば、その1歳は枯れてしまいます。

 せっかく発芽したけれど、その芽の成長には水分がとても必要。なのにそこが乾いた土壌だったならば、その1歳は枯れてしまいます。

 せっかく発芽したけれど、柔らかそうな新芽は美味しそう!虫たちのご飯になってしまったならば、その1歳は枯れてしまします。

 せっかく発芽したけれど、草食の動物たちがやってきてムシャムシャムシャ、周りの草たちと一緒に葉を食べられてしまったならば、その1歳は枯れてしまいます。

 色々な困難をくぐり抜け、背丈を伸ばし、無事に夏を迎えたのにそばには背丈の高い樹木が枝を伸ばし葉を広げ太陽の光が届かなくなってしまったなら、その1歳は枯れてしまいます。

 秋に母樹が種を蒔き、冬を越し、春を迎え発芽までに漕ぎ着けた1歳をわたしたちが樹木として目にできるようになるまでどれくらい残っているか?というと、それはかなり低い確率です。

 木々たちは知っています。一粒のタネが発芽し残れる可能性が低いことを。母樹は、タネの一粒一粒に、発芽するための智恵をぎゅっと詰め潔く手放します。   

 その、一粒が芽を出した、その姿を見に、森へ行きませんか?