森のおはなし④ー早すぎる春ー

冬の森は木々が風に揺れる音、落ち葉が風に巻き上げられる音が聞こえてきます。森の生き物たちは冬の冷たい風に吹かれながら春を待ちます。

お日様の位置が高くなり、日差しには春の気配を感じるけれどちょっとまだ風は冷たいな。くらいの頃、森の中に温かな陽の光が届くようになります。里にいる時より少し厚着をして葉っぱが積もった森の中を歩くと、カサッカサッと音がします。その落ち葉をどけてみると…!緑色の柔らかな草たちが顔を出します。積もった落ち葉の間から新しい芽を出しているものもいます。よく見ると、低い木々の枝先の蕾は膨らみ始め、冬芽は今にも弾けそうになっています。

森の春の始まりです。

背の高い木々たちが、葉を開いてしまうと、森の床に太陽の光が届かなくなってしまうので、背の低い木々や、草花たちはその前に芽を出し、葉を広げ、花を咲かせなければならないので大忙しです。花が咲き始めると、花の蜜を吸うアブやアリなどの小さな虫たちが花に集まってきます。頭の上では鳥たちが春のさえずりを始めて森はとても賑やかになります。

ただ、最近はちょっと森の様子が以前と違ってきています。これまでより温かくなるのが早くなってしまったため、植物の芽吹きが早くなってしまっただけでなく、花が早く咲き始めてしまいます。なぜそれが困るのか?というお話をします。

植物が花を咲かせる理由は、虫たちに花粉を運んでもらって、受粉のお手伝いをしてもらいたいからというのは皆さんよくご存知ですよね。蜜を吸いにきた虫たちが、身体いっぱいに花粉をつけて、次の花へ移動する。そうして、次の花の雌しべに受粉し、それがやがてタネになり森に撒かれ次の春に芽を出す。春は命の循環のスタート地点です。

では、植物たちは芽吹くタイミング、花を咲かせるタイミングをどのように決めているのでしょう。それは温度を感じていて、ある一定の期間温かさを感じることができると芽吹き、花を咲かせます。なので、早い時期から温かな日が続くとその時期が早まります。また、芽吹いたけれど、咲かせてしまったけれど、急に寒くなってしまった。ということが起きると、せっかく開いた葉は縮み、咲かせた花は凍みて枯れてしまいます。早く花が咲いてしまうと虫たちが動き出すタイミングと合わずに受粉をしてもらえません。凍みて花びらが黒ずんでしまった花には虫はたちは気がついてくれません。受粉ができなかった植物たちは、次の年に向けてのタネが作れず命をつなぐことができなくなり、数を段々と減らしていくことになってしまいます。

温かな冬を過ごせると人の生活はなんとなく楽なような気がしてしまうのですが、森で暮らす生き物たちには困ったことになってしまうのです。

 

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