【夢旅 047】旅ゆけばぁ〜 ②

旅で出会う不自由な動物たち

旅の途上で出会うのは、必ずしも自由奔放に暮らす動物たちとは限らないんだよね。動物園のような施設などで暮らしている、いわゆる「展示動物」に出会うこともあるし、もちろん、家で家族と一緒に暮らしている「ペット」にも頻繁に出会う。また、冊で囲まれた限られたスペースで暮らしている馬や牛、ときにはダチョウといった大きな動物と出会うこともあるんだ。

ときには、囚われの身のような動物に会うこともある。けっしてイジメられているわけではないんだけど、狭い檻の中で走ることもままならない。彼らは例外なくボクたちに話しかけてくるんだ。もしかしたらただ単に「遊んで〜!」って言ってるだけかもしれない。だけど、静かに何かを諦めたような力のない目で見つめられると、耐え難い窮状を訴えかけられているような気がして、どうしようもなく心が痛むんだ。で、つい「そこから出て一緒に旅をしよう!」って言いたくなっちゃう。たぶん彼らは人間と一緒に暮らしていたんだけど、理不尽な理由で捨てられたりしたんだろうね。でも、なんとか保護されて、そのおかげで生きること “だけ” はできてる。もしかしたら、狭い檻の中だけが自分の世界なのかもしれない。金網の隙間が外とつながるささやかな窓で、自由ってなんだたっけ?  っていうくらい不自由な暮らしに慣らされている彼ら。彼らが幸せなのか不幸せなのか、ボクには分からない。だけど、彼らのような動物たちに会うといろいろと考えさせられてしまうんだ。ボクには何もできないのかな…。「正解」ってなんだろうね。って。

今まで出会ってきた動物たちの中でもダントツに印象深いのが「ヒグマ」。
数年前にホーリーと二人で襟裳岬から宗谷岬まで、北海道を歩いて縦断した旅でのこと。いかにもヒグマが棲んでいそうな狩勝峠を越える手前で出会った。

前日は名前も分からない川の岸辺で野宿して、朝早くもやが立ち込める中を歩き出したんだ。そして、峠道にさしかかる頃、ポツポツと雨が降りはじめて、峠道の上り坂をえっちらほっちら登ってるときに本降りになっちゃったんだよね。ゴールデンウィークなのにすごく寒くて(旅の途中に雪が降ったこともある)、おまけに雨で視界が悪い上にだんだん暗くなってきたんだ。歩いているのは国道なんだけど、車通りの少ないかなり寂しいクネクネの峠道。右側は鬱蒼とした森で、木の下にはクマザサが茂っていて、左側はクマザサがびっしり生えた下り斜面。もう見るからにヒグマがいそうなところなわけ。ボクは、嫌がるホーリーに無理やり前を歩かせて、いざとなったらヤツを盾にして一目散に逃げてやろうと思ってた。ホーリーは一応、「ベアスプレー」を持っていたんだけど、いざとなったら手足がすくんでまともに使えるとは思えなかったから逃げるのがイチバン。

風が吹いてクマザサの葉が鳴るたびにビクッとして立ち止まってはオドオドしながら森の中を凝視する主人(ボク)と従者(ホーリー)。途中で立ち寄ったトイレの壁にはデカデカと「ヒグマが出没しています!」の張り紙。「します」じゃなく「しています!」と現在進行形。今にもトイレの個室からのっそり出てきそうな言い方。しかも「!」付き。外は雨。いるのはボクたち二人だけ。あのね、雨が降ってるといろんな音が雨音にかき消されちゃうわけ。それで、なんの「気配」も感じられなくなっちゃってものすご〜くコワイんだよ。

結局この日、雨と寒さ、脳内でのヒグマとのタタカイでヘトヘトに疲れたボクたちは、偶然見つけた峠の手前のホテルに避難した。そして、そこで本物のヒグマと出会ったんだ。野生ではなく展示動物としてのヒグマに。ガラス越しに見るヒグマは想像以上の迫力だった。体重400kg、2階の天井をぶち抜くほどの高身長。顔なんてひと抱え以上あるハロウィンのカボチャくらいデカイんだ。もしも山の中であんなのが森から出てきたら、ホーリーを「盾」なんかじゃなく「生け贄」として差し出すしかないのだとボクは確信した。

大きな動物の中でも優しくて穏やかな馬というものがボクは好きだ。フンフン鼻息が荒くて甘咬みしたりもするけど、ボクが背中に乗っても笑って許してくれそうだし、ユラユラ揺れるしっぽで遊んでるうちにお尻を引っ掻いちゃっても話せば分かってくれそうだしね。
その点、ダチョウはダメだ。まるで会話にならない。ポヨポヨとまばらに生えた薄毛の頭と意地の悪そうな目。ニヤッと笑ったかと思うといきなりドカンと突っついてくるパワハラオヤジ的な行動。まるで何を考えているのか分からない鳥だ。
グーグル教授によると、ダチョウは150kgを超える体重のわりに脳は40g程度(クルミくらいのサイズ)しかないから絶望的なまでにアタマが悪いらしいよ。なんでも、人が背中に飛び乗っても一瞬でそのことを忘れちゃって、そのままフツーに生活しちゃったりするみたい。だけど、というか、だからというか、時速70kmで走ることができるし、骨が見えるほどの怪我をしても別に痛がるそぶりも見せずに1ヶ月もしたら元通りに治っちゃうという、脅威のフィジカルの持ち主なんだって。ちなみに、ダチョウの卵は地球上で最も大きい卵で、ニワトリの卵25〜30個分、重さ1.2kg〜1.5kgもあるんだって!  卵が高い昨今、もしかしたらダチョウの卵はコスパがいいのかも。ただ、小分けにできないところが難点だ。

って、ダチョウの話で終わる予定じゃなかったんだよね…。
旅の中ではヤギやヒツジ、アルパカといった家畜や、シカやイノシシ、キョンのような野生動物に会ったりもするから、そんな動物たちのことも書くはずだったんだけど、字数がちょうどいいからこの辺でオシマイ。