【夢旅 048】カム咬むエブリバディー

 

 

 

ズーノーシスに御用心

犬に咬まれた。
腕、足、腰と、3回咬まれた。咬んだのはすべて同じ犬だ。下手人(げしゅにん)、というか下手犬(げしゅいぬ)は、若いミニチュア・シュナウザーの男の子。男嫌いのその子は、会った瞬間から大そうな吠えっぷりだった。ボクはたじろいだ。相手はそう大きくない犬だけれど、筋肉質の体はパンパンでカチカチ、しかも若いときてる。そのうえ、犬種名の由来となった独特のヒゲは貫禄たっぷりで威厳すら感じる。その子(以下「その①」)は連れの同じくミニチュア・シュナウザーの男の子を巻き込んで、今にも飛びかかってきそうな勢いでギャン吠えした。そんな彼らにボクは思わず後ずさってしまったんだ。

と、そこへホーリーがツツツーッとボクの前に出た。そして、「オショショオショショ」と、何かのおまじないなんだろうか、犬や猫に会ったときに発する謎の言葉を口にしながら吠えまくる犬たちに近づいた。オショショオショショと呟きながら、男嫌いのギャン吠えその①に向かってしゃがみこんで手を差し出すホーリー。瞬時になんの躊躇もなくガブリとやるその①。思わず「お見事!」と称賛したくなるほどの早業にホーリーはなす術もなかった。咬まれたのは右腕の手首と肘の中間あたり。けっして甘咬みなんかじゃなく本気咬み。おまじないの言葉は「オショ…」で途切れた。そう、犬に咬まれたのはボクじゃなくてホーリーなんだ。


最初の本気咬みは完全にホーリーの不注意。犬は、相手が怖いから吠えてるわけで、警戒心マックスで「近寄るんじゃねぇ!」って言ってるはずなんだ。そんな犬に簡単に手を差し出したらそりゃ咬まれるよね。もっと慎重に様子を観察してからじゃなければダメだよね。このケースは、咬まれたほうが悪い。
でも、2回目と3回目は、その①がホーリーの死角になるところから走ってきて、挨拶もなしにいきなりガブッと咬みついた。2回目は右ひざの横、3回目は左の腰。完全なる不意打ちだった。あれでは避けられない。横を歩くボクなんかその①の眼中にはなく、ホーリーをロックオンしたらまっしぐらにアタック。しかも、ほぼ後ろから。「ミニ」とはいえ、かつてはねずみの駆除をする犬として活躍していたこともある犬種なだけあって、大きさのわりにはパワフル。ホーリーの腰にはくっきりとキレイな歯形がついていた。

それにしても、なんであそこまで嫌うんだろう。あとで食べようと思って大事にとっておいた大好きなおやつ(ボクの場合なら鹿ジャーキー)をおじさんが食べちゃったとか、何か酷いことをされた経験でもあるんだろうか…。もしそうだとしたら、その①に同情しちゃうなぁ。犬に罪はないんだ。人間の赤ちゃんが、お腹がすいたといっては泣くように、猫が爪とぎをするように、犬は咬むものなんだ。鹿ジャーキーを横取りされたらボクだってホーリーに咬みつくかもしれない。

 

前にチラッと書いたかもしれないけど、みなさんは「ズーノーシス 」って知ってる?
動物から人間に感染する病気で「人獣共通感染症」や「動物由来感染症」って呼ばれている病気のこと。ズーノーシスの中には、動物は無症状だけれど人に症状が出るものや、動物も人も発症するものなど、病原体によっていろんなタイプがあるんだ。犬や猫から人に感染して、何らかの症状が出てしまうものもある。その中には、犬が人を咬んだことによって人に症状が出てしまうものもある。ズーノーシスの中で犬や猫から人に感染する病気の代表的なものを挙げるから憶えておいてね。

 

<狂犬病>
狂犬病ウイルスに感染することで起こる病気。狂犬病ウイルスに感染した犬などの動物に咬まれたり、傷口を舐められたりすることで人に感染する。猫、アライグマ、キツネ、コウモリなど、犬以外の動物から感染することもあるんだ。通常、人から人への感染はないとされている。

日本では、1957年の動物(猫)の症例を最後に、国内での発生はなく、日本は「狂犬病清浄国」のひとつとなっている。潜伏期間は約1〜3ヶ月程度。感染動物に咬まれた直後(24時間以内)にワクチンを打てば発症を予防する効果が期待できるけれど、一度発症してしまうと治療方法がなく、ほぼ100%の確率で死に至ってしまうというめちゃくちゃコワイ病気なんだ。海外ではむやみに犬に触れないようにしようね。

 

<パスツレラ症>
パスツレラ菌による感染症で、犬や猫から感染することがある。パスツレラ菌は、犬や猫の口腔内に普通にいたりする。猫ならほぼ100%の確率、犬も約75%の確率で口腔内に常在する。普通に口の中に菌がいるわけだから、犬や猫はほとんど無症状。
症状としては、犬や猫に咬まれたり引っかかれたりした後、数時間で傷口が赤くなったり腫れたりする。また、呼吸器に症状が出ることもあって、免疫力が弱い人の場合、敗血症に至ることもあるから油断禁物。発症した場合の治療法は、主に抗菌薬の投与。
猫のボクがいうのもなんだけど、犬や猫に咬まれたり引っかかれたりしたら、まずは傷口をよく洗ってから早めに病院に行ってね。

 

<猫ひっかき病>

バルトネラ・ヘンセレ(舌を噛みそう)という細菌に感染することで起こる病気。バルトネラ・ヘンセレは、ネコノミ(ノミの一種)から猫に感染するといわれている。ネコノミは、野良猫、飼い猫に寄生するノミで、犬に寄生することもある。猫や犬はほとんど無症状。
また、バルトネラ・ヘンセレは、猫や犬の唾液中にいることもあるんだって。
症状としては、細菌が体内に侵入すると、脇の下や鼠蹊部といった局所リンパ節が腫れてしまう。また、まれに血液中に細菌が入り込んでしまうことがあって、その場合、さまざまな合併症を引き起こすことがある。
けっして猫を怒らせてはいけないよ。猫には歯という武器だけでなく、猫パンチという強力な技があるのだから。

<カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症>
なんとも憶えにくい名前のこの病気、カプノサイトファーガ・カニモルサスという細菌に感染することで起こる病気なんだ。厄介なことに、この菌も犬や猫の口腔内に常在している。もちろん、保菌者の犬や猫はほとんど無症状。
犬や猫に咬まれたり引っかかれたりすることで感染する。潜伏期間は1〜8日程度で、症状は発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛など。発症することは極めて稀だけれど、ごくたまに重症化(敗血症や多臓器不全など)してしまうケースもある。

ズーノーシスを過度に怖がる必要はないけど、かかってしまったときの対処が遅れてしまうと厄介なことになりかねないから、やっぱりひと通り知っておいたほうがいいよね。
そして、犬や猫に咬まれたり引っかかれたりしたときは、スバヤク洗ってスバヤク病院に行くようにしましょう。
ホーリーのやつ、傷口を洗いもしないし病院にも行ってないから、一度きつく叱っておかないとなぁ。