【夢旅 045】酒と犬と海獣と

 

 

 


カクテルになった犬たち

「獣医BAR」という一風変わったバーに行ってきた。1日限りのお店で、獣医や動物看護師、ペット業界で働く人、犬好き猫好きが集まってペットの話でワイワイ盛り上がろうということらしい。ボクは猫なのでお酒は飲まないけど、もしかしたら鹿ジャーキーがあるかもしれないし、何より、夜の外出なんて久しぶりだから、ホーリーを共に連れてウキウキしながら出かけて行ったんだ。場所は、今ちょっと話題になってる外苑前。久しぶりのおしゃれタウンに若干気後れしつつ、「すごいねー。」なんて言いながらホーリーとふたりで夜の街を歩いた。

一日限定の「獣医BAR」にはたくさんの人がいた。その場にいる全員が何らかのカタチでペットに関わってるわけで、毎日のように動物に接しているんだろうなぁ、って思ったら、気のせいか、店内の空気に犬やボク以外の猫の香りを感じた。
バーというからにはメニューはお酒がメインなんだけど、出されるお酒も一風変わっていて、犬種の名前のカクテルなんだ。作ってくれるのは、京都東山のレストランで “ミクソロジスト” として活躍するお方。「ミクソロジスト」という言葉が初耳のボクとホーリー。ここはグーグル教授にお出ましいただいたところ、「野菜、果物、ハーブなどを使って新鮮なカクテルを作る人で、カクテルのアーティストとも呼ばれる」ということ。バーテンダーとは違うんだね。


この夜のカクテルは、ビールとカモミールとはちみつを使った「トイ・プードル」、焼酎と京柚と緑茶の「柴犬」、ジンとコーヒーとチョコレートの「ヨークシャー・テリア」の3種。酒好きのホーリーが選んだのは「トイ・プードル」。ビールの泡がトイプーのふわふわの被毛で、カモミールの花がトイプーの毛色を連想させるんだって。ビールっぽいんだけどはちみつが入ってるからちょいと甘い、どんだけでも飲めんじゃね?系のお酒らしい(ホーリー、アンタはほどほどにしとけ)。人間はお酒という摩訶不思議な水を飲むと饒舌になる。どのテーブルもいつの間にか獣医さんや動物好きな人たちの間でイヌバナネコバナに花が咲いている。

彼らの話を聞いていて特に面白かったのが、とある獣医さんが披露してくれた海獣のトレーニングのお話。海獣(怪獣ではない)とは、イルカやシャチ、アシカやアザラシなど、海で暮らす哺乳類のことだよね。水族館ではイルカやアザラシのショーをやってたりするでしょ。ショーに出て持ち芸を披露する海獣たちのトレーニング方法って、実は、基本、全部同じなんだって。イルカもシャチもアシカもアザラシもみんな同じトレーニング方法で芸を覚えるんだそうだ。だから、イルカのトレーニングができればアザラシのトレーニングもできちゃうってことらしい。トレーナーさんがすごいのか海獣たちが想像以上に単純なのかはわからないけど、ヘェ〜な話だよね。
海獣のトレーニング方法を犬に応用したらどうなるだろう。もしかしたら、ある程度通用しちゃったりするのかもしれない。では、猫ではどうか。無理だね。ボクは断言する。猫にはゼッタイ通用しない。そもそも猫は人間の思うようには動かない。ボクら猫は自由だから。

この夜、病みあがりのホーリーが酔い潰れることもなく、たくさんのイヌバナ、ネコバナ、カイジュウバナに触れ、ボクたちはとても満ち足りた気分で獣医BARをあとにした。
そして翌日、ボクたちはすっかり秋模様になった軽井沢にいた。

標高1,000メートルの高原はとても涼しく(ってか、朝晩は10℃くらいまで気温が下がるから寒い)、一段と高く青くなった空とススキを揺らす爽やかな風が気持ち良くって、ひなたにいるとなんだかホロホロと眠くなってきちゃう。
軽井沢ではいつものように定宿としているモトさんミクさんの家に泊まった。ここではボクは、夜遅くに家の外へ出てじっと耳を澄ますのが好きだ。なんでかって?  それは、家の前が森になっていて、夜になると獣の気配がしてくるから。

この日の夜も外に出てじっと耳を澄ました。ボク自身の気配をできるだけ消して、猫の置物のようにじっと動かずにいた。すると、やがて森の中でかすかに “カサカサ” という落ち葉を踏む音や “ポキッ” という小枝が折れるような音がしてくるんだ。何かわからないけど何かいる。すぐそこで動いている。音の感じだと小さな動物。右から左、左から右と音が動いたりもする。小さな獣が食べ物でも探しているのかもしれないなぁ。

先月は目の前を割と小さな動物が横切った。タヌキだろうか、キツネだろうか、イタチかもしれない。ボクはかなりコーフンして猫の気配全開大放出になっちゃったんだけど、実のところ相手も猫だった。軽井沢野猫。

家に帰ってねぎま先輩を見ていたら、不意にカクテルが作りたくなった。白黒のカクテルだ。そこで、モノトーンのカクテルがあるかのどうかグーグル教授にお伺いしたろころ、「ブラックベルベット」という黒ビールとシャンパンを使ったカクテルがあるとのこと。ならば、ボクが作る白黒カクテルは、日本猫である先輩にちなんで、黒ビールとスパークリング日本酒で作ろうと思う。カクテルの名前はズバリ「ねぎま先輩」。
なんか、美味しそうじゃない? (猫のボクはお酒飲まないんだけどね)
えっ、焼き鳥を連想しちゃう?  それとも…。