【夢旅 037】龍神さまも熱中症にご用心

 

 

 

龍とアートと真夏のマルシェ

先週、ボクはグッタリとした夏の夜を過ごすハメになってしまった。あれは紛れもなく熱中症だったんだと思う。毎日のように肉を食べ(猫は完全肉食なので)、腹ごなしにねぎま先輩とニャンプロをしているボクが、何かを食べる気にもならず、ひたすらスライムのようにグニャグニャになってしまった。それもこれも紫外線に対してノーマークだったことが原因なんだと思う。熱中症は気温だけの問題じゃないんだなぁ、と思い知った次第。

熱中症のダメージは1週間たった今でもちょっと残ってる感じで、日がな一日冷たい床の上でグデ〜っと寝てばかりいたんだ。そしたら、放置されてつまらなくなったんだろうね。
「ねえねえ、ぽんずさん、龍を見に行かない?」と、ホーリー。
「めんどくさいから行かない。暑いし。」と、つれなく突き放すボク。
「鹿ジャーキーあるかも。」と、甘い言葉で畳みかけるホーリー。
「鹿…………!」「行…………く!」と、食欲だけは回復したためか、口が勝手に動いてあっけなく誘いに乗ってしまったボク。

ということで、今回向かったのは長野県の御代田。この地名、ちょっと読み方が難しいんだけど、「みよた」って読むんだ。グーグル教授に地名の由来を伺ったところ、「明治の御代(みよ)に小田井、前田原、池田新田、児玉新田の4つの “田” が合併したことから “御代田” と呼ばれるようになった」とのこと。意外と単純な由来だった。

御代田では、毎年7月の最終土曜日に「龍神まつり」っていうお祭りがあるんだって。そこでは全長45メートルの龍(たぶん日本一)が、爆竹バンバン煙幕もうもうの中、口から火を吐きながら巨体をクネクネさせるっていうんだから迫力ありそうだよね。見ものだよね。見たいよね。

この龍神まつりは「甲賀三郎龍伝説」っていう伝説に基づいているんだって。甲賀三郎?  誰よ?
ということで再びグーグル教授にお伺いを立てた。
甲賀三郎さんは、浅間山の麓で奥さんとふたりで仲良く暮らしてたんだけど、ある日、二人の兄(たぶん太郎と次郎、もしくは一郎と二郎)の嫉妬によって蓼科山の深い穴に突き落とされちゃったんだ。細かい家庭の事情はわからないけど、きれいな人だったんだろうね、三郎さんの奥さんは。そんで、太郎と次郎(もしくは一郎と二郎)は独身でモテなかったんだろうね。それで兄たちが嫉妬しちゃった。美人の嫁と暮らすイケメンの弟に。で、とうとうやっちまった。見た目とかお財布事情の違いから事件が起こるのは今も昔も同じなのかもしれないね。

穴に落とされた三郎さんは、地底の奥深くを幾日もさまよい歩いたんだ。そしてある時、一条の陽光を見つけて地上に出た。そこは「真楽寺」というお寺にある池。三郎さん、助かったぁって思ったろうね。うれしかったろうね。ところがどっこい、「龍がでた! 怖いよ〜」って叫んで、周りの人が逃げ出したんだ。で、三郎さんは水面に自分の姿を映してみたんだけど、あら不思議、映ってるのは龍じゃありませんか。
でもさ、龍ってすんごい長いでしょ。だったら、地底を歩ってる間に「あれ? なんか、俺、長くね?」って気づきそうじゃない?  気づくよね普通。だって、振り向けば俺、なんだから。

まぁ、ツッコミどころ満載なのは伝説あるあるなので、ここはオトナの対応で先に進みましょ。
えっと、自分が龍になっちゃったことを知った三郎さん、悲しみ、困惑、怒りを抱えて奥さんを探して蓼科山に向かったんだ。一方、奥さんはというと、くる日もくる日も三郎さんを探し回ったんだけど見つからない。そして、悲しみ、苦しみ抜いた末に諏訪湖に身を沈めて龍になっちゃた。(ここもツッコミどころだけどオトナの対応でスルー)
さて、ここで三たびグーグル教授にお伺い。御代田と諏訪湖、どのくらいの距離かというと、約60キロ。いやぁ、奥さん、健脚ですね。

で、結局、龍になった三郎さんは、同じく龍になった奥さんと諏訪湖で巡り合うことができて、今でも諏訪湖の底で仲睦まじく暮らしているそうな。めでたしめでたし。(だと思う)
それにしても、会った時はお互いに相当驚いただろうなぁ、龍になってて。なんていう余計な詮索はしないようにしましょう。

前フリが長くなっちゃったけど、今回、ホーリーがお店を出したマルシェの会場の「MMoP(モップ)」に龍がやってくるって聞いてたから、ボクはすっごくワクワクしてたんだ。なんせ、爆竹バンバン煙幕もうもうの中、口から火を吐くドデカ龍なんだからワクワクするでしょ。龍神さまがやってくるはずのここは、アートフォトと自然が融合した御代田の新しい複合施設で、写真美術館やカフェレストラン、ショップなど8つの施設が集まったお洒落な空間なんだ。

そんなお洒落スポットに、来た。確かに来ました、龍神さまが。でも、思ったより小さかったなぁ。もしかしたら、三郎さんじゃなくて、奥さんだったのかなぁ。爆竹も煙幕もなく、強い日差しの中をしずしずと、2度練り歩いてあっけなく帰って行った。去っていく龍神さまの後ろ姿に向かって、ボクは、心の中で「龍神さま、熱中症にはくれぐれも用心してね。」と囁いた。だってさ、普段水の中で暮らしてるワケでしょ。そんなお方が真夏のクソ暑い中を歩き回ったらイッパツで熱中症になりそうだもんね。龍神さまも水分補給と日陰での休憩が大事大事。

もちろん、ボクもこまめに水分補給して風が通る木陰で気持ちよく休みましたよ。だから、先週みたいに熱中症にはならなかったし、鹿ジャーキーも食べた。もちろん、鹿ジャーキーは美味しかったよ。でも、家に戻れば相変わらずの灼熱地獄。スライムな日々はまだまだ続きそう。もしかしたら、秘密基地でグニャグニャと暮らす「ぽんずのスライム伝説」なんてものができるかもしれない。

さてさて、日本には各地にいろんな伝説があって、まだまだ知らない話だらけなんだろうね。猫にまつわる伝説なんていうのもきっとあるんだろうなぁ。日本の伝説をめぐる旅なんていうのも面白そうだよね。

さぁ、次はどこ行こ。