【夢旅 019】続いちゃったよ、白い妖精にひと目惚れ
ヨーゼフあらわる
ボク、まだ雪と氷の裏磐梯にいるんだ。寒いところが大っキライな猫なのに、ね。理由は簡単。先週出会った真っ白で妖精のようにカワイイ子ヤギちゃんのことが忘れられないから。彼女のことをボクは勝手に「ユキちゃん」って呼んでる。会ったときは心臓バクバクで、頭ん中ユキちゃんの白さと同じで真っ白だったから名前も聞けなかったんだもん。
あんな気持ちは初めてだよ。もしかして、これって初恋？
今年8歳、人間の年齢に換算するとアラフィフのおじさんのよもやの初恋。1週間ずっとフワフワしちゃってた。それで、胸がいっぱいでご飯もノドを通らない……なんてことはぜんっぜんなくて、そこはアラフィフのおじさん、毎日朝昼晩きっちり空腹になるんだからイヤになっちゃうんだよね。
ここには鹿ジャーキーがたんまりあるし、鹿のソーセージや猪のフランクフルトだってあるんだ。鹿と猪のホットドッグをホーリーと分けあって食べたけど、どっちかっていうと、やっぱり鹿のほうが好みかな。別に最近ちょっと太ってきたから健康を気にして赤身で脂肪分の少ない鹿肉を選んでるわけじゃないよ。鹿のほうがより自然を感じるっていうか、ボクの中にほんの少しだけ残ってる野性の本能がドクンって反応するんだよね、鹿のほうが。（でも、お腹のタルンタルンを多少気にしてはいる）
で、なんだっけ？
そうだよ、ユキちゃんだよ。初恋だよ。アラフィフのおじさん猫が禁断の恋にフォーリンしちゃったって話だよ。大変だよ大変だよ。どーすんだよどこ持ってきゃいいんだよこの気持ち。
それで、ユキちゃーーーーーん。って湖の上で叫んでたらさ、きちゃったよ、でっかいのが。黒と白と茶の三毛のデカ犬が。この大きな犬は「バーニーズ・マウンテンドッグ」っていうんだって。通称「バーニーズ」。コイツがすごく気のいいヤツなんだよね（あとで聞いたら女子だった…。ゴメン）。とにかくデカくて、ボクの10倍近い体重になるんだけど（最近中年太りのボクは約6kg）ぜんぜんオラオラじゃなくて、おっとりしててボクが背中に乗ってもニコニコして、牛タンみたいな舌でベロンってなめるんだ。「なめんじゃねー！ シャーッ！」って怒ってみたけど、ニコニコしてた。
この犬種はスイス出身で、2000年以上前からアルプス地方で牧畜とか護衛、荷物の運搬をする犬として働いてたんだって。（コレはもちろんホーリーにグーグル先生を呼んでもらってゲットした情報）
で、ボクはこの犬を「ヨーゼフ」と呼ぶことにした（セント・バーナードじゃないけどね）。そう、もう分かってると思うけど、ユキちゃん、ヨーゼフときたら、アレだよね、アレ、ハイジ。アルムおんじはデルフリ村に物々交換に行ったんだべか（ここでなぜ訛る？）、ペーターはまたどうせ昼寝だっぺ（って、だからなぜ訛る？）。クララは歩いたんだべか（スイスなめてんのか？）。山（磐梯山）が会って、湖（曽原湖）があって、雪原があって、カワイイ子ヤギに出会って、でっかい犬がきたら、もうハイジワールドなわけだ。ハイジもペーターもアルムおんじもいないけど、ボクの中では完全にハイジワールドができあがったんだ。
グーグル先生によると、ハイジは5歳でデビューして8歳までテレビに出てたらしい。ふむふむ。次に「アルムおんじが、70歳のときハイジと暮らし始める」。この情報には驚いたね。だって、おんじ、70歳過ぎにしちゃ肌ツヤよくね？ シワなくね？ あと、「元傭兵」には倒れそうになったね。しかも、原作では性格が荒いうえに飲む・打つ・買うの放蕩三昧で全財産と家族を失ったって、そりゃあんた、ダメだよ。そういうの日本じゃロクデナシっていうんだよ。
おんじ、アンタ70代で肌ツヤよくて足腰丈夫ってのはいいけど、いろいろ気をつけなよといいたい。ロマンス詐欺なんていうのもあるしね。マッチングアプリとか使っちゃダメだよー。
それでね、ユキちゃん（ボクの初恋の相手じゃなくて、ハイジの話の中のヤギのことね）って、小さいけど実は大人のヤギだったらしいんだ。小柄で乳の出が悪かったから殺処分されそうになったんだけど、ハイジとペーターが助けたんだって。エライぞハイジ、ペーター！
ボクは元野良猫で獣医師のグッチー先生に保護された身。ユキちゃんを助けたふたりに最大限の賞賛をおくりたい。
それにしても、洋の東西老若男女の違いなく、自分にとって益がなくなった動物は亡きものにしてしまえばいいなんていう身勝手極まりない人間っているんだよなぁ。そのことを考えると、ボクはすごく悲しい気持ちになるし、飛んでいって強烈な猫パンチをお見舞いしたくなるんだ。そんなヤツ、ゼッタイ許すことなんてできない！
ボクが恋したユキちゃんは、すっごくいい人と一緒に暮らしてて、とっても幸せそうだった。たとえ小さいまんまで乳の出が悪くても、彼女はずっとずっと大切にされるはず。ハイジもペーターも、そしてボクも出る幕はないんだろうなぁ…。
寂しくなって「ユキちゃーーーーーん！」って叫んだら、ヨーゼフがニコニコしながらやってきた。真っ白な友だちを連れて。ヨーゼフ、キミはやっぱりいいヤツだね。
