【夢旅 007】 ギンザの鹿と白い花

 

絵の中の小さな森に “いのち” を見つけたよ

「ぽんずさん、東京のギンザって街に鹿がいるから会いに行ってみる?」

今回は、ホーリーのこんな誘いが旅のきっかけなんだ。

ボクは、鹿ジャーキーが大好物なんだけど、本物の鹿にはまだ会ったことがない。だから、ホーリー(猫語で “執事” の意)の誘いに乗るのはシャクなんだけど、鹿には会いたいから “ギンザ” に行くことにしたんだ。そして、ギンザの鹿に会う夢旅のために、おやすみ〜。

ボクたちは、鹿がいる銀座4丁目の交差点を目指した。そこはとても有名な場所で、ギンザの待ち合わせの定番スポットにもなってるんだって。だから、あちこちからワラワラと人が集まってくる。で、ミツコシっていう、風邪ひいたライオン(猫のくせにマスクしてた)がいる大きなお店の前で、ボクはアワアワして動けなくなっちゃった。完全に固まった。完全自縛(そんな四字熟語はありません)。

だって、なんなの? 噂には聞いてたけど、なんでこんなにウジャウジャ人がいるの?

 

ぼくが普段会う人は、ホーリーとワミさんのほかに、猫のコハちゃん、キナちゃんのママ、元やんおじさんの松やん、派手な髪型のピンキーおばちゃんくらいしかいないのに…。

ここには猫もいないし犬もいない。人、人、人。びっくりするほどたくさんの足がボクをまたいでいく。ス、スゴすぎる。ギンザ、まじヤバい。こんなとこに鹿なんているの?

と、気絶しそうなほどびびりまくってるボクを、ホーリーがヒョイと抱き上げた。そのまま交差点を渡っていく。

やっべー、助かった…。あと2秒で気絶してたね、ゼッタイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

交差点を渡りきったら、なんと、そこには小さな森があったんだ。そして、鹿がいた。本物じゃなく、絵の中だったけど、そこには確かに鹿がいた。
だって、鹿たちは生きてたんだ。”いのち” があったんだ。ウソじゃないよ!
人間には分からないかもしれないけど、猫のボクには分かる。1頭の鹿は、ボクをじっと見てなんかしゃべってた。鹿語だから意味はぜんぜん分かんないけど、無造作に捨てられる “いのち” についてなんか伝えたかったのかなぁ…。
立ち止まって絵を見る人、絵には目もくれずサクサク歩く人、小さな森の前をたくさんの人が通り過ぎていったけど、そこにある “いのち” には誰も気づいていなかったみたい。
自然から離れちゃったから、人間って “いのち” に鈍感になってるのかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でね、でね。鹿のほかにもボクは “いのち” を見つけたんだ。正確にいうと、”いのちの種” かもしれない。小さな森の前にね、たくさんの「白い花」があったんだ。真っ白い花。あまりにもキレイだったから、猫だけどみとれちゃったよ。生クリームみたいでおいしそうだったし。
でも、その花は生クリームなんかじゃなくて「紙」でできた花だったんだ(ちょっとザンネン)。捨てられちゃうようなコットンと木材パルプでできた紙。
“いのち” を無駄にしない紙なんだね。別の “いのち” がぐるっと回って白い紙の花になってる。だから、ボクは「白い花」に “いのち” を感じることができたんだろうなぁ。

白い紙の花は真っ白だから、まだ “いのち” は半分。だから、花だけど “いのちの種”。もしかしたら、見る猫や人が想像の中で一つひとつ色をつけて、色とりどりの花になって、そんで、この花の ”いのち” が完成するのかもしれないなぁ。
ボクは、猫が見分けられる色を全部使って「白い花」に色をつけたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思いがけずギンザで “いのち” を考えたらなんだかお腹がすいちゃった。鹿ジャーキー食べ放題って気分だけど、さっき鹿に会ったばっかりだから、家に帰って ”いつもの” カリカリを食べよう。そういえばさぁ、ずっと前から気になってたんだけど、人間って、いろんなもの食べたがりすぎじゃね?