柿と野生動物と日本人

秋の里山の景色の中によく見かけるのが「柿」です。

オレンジ色の果実は誰が見ても美味しそう!なんて思って「ガブリ」とすると、渋柿で思わず「ペッ!」と吐き出したりして。そんな経験をしたことがある方はどのくらいいらっしゃいますか。今、目を上げて窓の外に柿の木が見えるかはいらっしゃいますか?私のように、信州の田舎に暮らしていると、この時期、当たり前のように、山際や畑の隅、古い家の敷地には柿があります。

柿は学名でもDiospyros kaki Thunb.と著され「カキ」という表記がされています。英語やドイツ語、フランス語でも「Kaki」で名が通っているほど親しまれているフルーツです。

その柿が今の里山では、ほとんど収穫されずに残っています。

これは、想像でしかないのですが、これほど植えられたということは、かつてはとても大事な食糧源だったのだと思います。渋くて、そのままでは食べられない柿も手間をかけて干すことで甘い干し柿になり、冬の大切な栄養源だったのでしょう。栄養源だけでなく、甘くて美味しい干し柿は冬の楽しみだったのではないかと思います。しかし、現在、こんな田舎でも柿を採り皮を向き、何日も手をかけるということは生活に合わなくなったのかもしれません。手間をかけなくてもお金を出せば手に入る。それは他の野菜と同じなのでしょう。

山際や、畑の隅、敷地に植えられ収穫されなくなった柿は野生動物にとってはこの上ないご馳走になります。遠目に見ても、すぐに目に入るオレンジ色を目当てに、鳥たちも柿に群がります。山の動物たちは、オレンジ色を目指して姿を現し、木に登ります。その時に、ふと畑を見ると美味しそうな野菜もあったりして…。そうなると、それもちょっと「いただきます!」そこで、人にバッタリあったりするとクマなどは「きゃーっ、クマ!」と叫ばれ、クマも驚いて思わず手が出てしまうと相手は「人」。大怪我を負わせてしまうか、時には死に至ってしまいます。そのクマは有害鳥獣となり捕獲の対象になり、追われることなります。襲われた人も、その家族も心と身体に傷を受け、クマは憎む相手になってしまった。というケースにも出会ったことがあります。

人にとってもクマにとっても悲劇だと私は思いました。森林の中に柿の木を見ることはほとんどありません。ですから、実が目に入れば動物たちは里に出てくる。かつての日本では大切な食糧だった柿が、今は迷惑なものになってしまっっている。秋の風物詩である柿の実がなった木がある風景なのですが、収穫されないままの柿の木を見上げると、どこか悲しいものを感じてしまいます。