子供を残す「作戦」のいろいろ

子供を残す「作戦」のいろいろ

イノシシの子供たちはウリンボウ(うり坊)と呼ばれます。イノシシは多産で野生状態では4頭から5頭ほど、時にはそれ以上の比較的小さな子供を産みます。日本の大型野生動物では珍しく多産で、しかも条件が良ければ毎年出産します。ニホンカモシカは条件が良ければ毎年、あるいは隔年で1頭の子供を産み、ニホンジカは毎年1頭の子供を産みます。さらに、イノシシの産む子供は、母親の体格や栄養状態によっても変わるのですが、概ねカモシカやシカの子供よりも小さいのです。

動物が一生をどのように生き、どのように子供を残し、育てるかという特徴を生活史戦略と呼びます。動物によって子供の残し方や育て方が異なるのです。それでは、なぜこのように異なるのでしょうか。母親の子供への投資には限界があります。また、哺乳類はお腹の中に子供を宿すので、お腹の大きさにも制約があります。そうすると、大きな子供を1頭産む方向と、小さな子供をたくさん産む方向に分かれます。カモシカやシカは前者、イノシシは後者です。そして、その選択に関係する条件の一つが生息環境です。その動物が生活している場所の環境が変動し、食料資源の質も量も大きく変動する環境では、子供の死亡率が大きく変化します。その場合、結果として多産が有利になります。小さな子供をたくさん産んで、条件が良ければ子供がたくさん生き残ります。条件が悪ければ多くの子供が死亡しますが、それでも残った子供によって次世代を残す作戦なのです。イノシシの好物のドングリなどは年によって豊凶があり、豊作の年には十分な食料があるので、死亡率も低く栄養を蓄積して冬を迎えられます。しかし、不作の年には他の食料を探すことになりますが、栄養を十分に摂れず、子供の死亡率が高くなることがあります。イノシシは木の根や地下茎、カエルやサワガニなど、さまざまな食べ物をメニューにしているのも、変動する環境の中で生きるうえで有利なのだと考えられます。

一方で、少産の動物であるニホンカモシカは、自分と子供が生活できる食料資源や外敵を避ける場所のあるなわばりを守りながら、そこで1頭の子供を育てます。人を含む大型霊長類やゾウも長い間子供を育てます。子供の成長が遅いことや成長の過程で学ぶことが多いことなどが関係していると言われています。比較的安定した資源環境では、こうした生活史が有利になる場合があります。

また、ニホンジカも子供を1頭しか産みません。ニホンジカは移動しながらさまざまな環境を使い冬の厳しさなどの条件によっては子供の死亡率は高いのですが、イノシシとは異なり、1頭の子供に十分な投資を行い、出生直後から母親について移動できる能力を持たせる作戦をとっています。同じように環境の変動を受ける動物でも、どのような生活史戦略が有利になるかは、食物、移動能力、捕食、成長速度、親子関係など、さまざまな条件によって決まります。

野生動物は、それぞれが暮らす環境の中で、子供の数や大きさ、成長速度、親による世話などに異なる形で投資しています。その違いが、子供の数や大きさ、親子関係などの違いとして表れているのです。

 

<一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。>

南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭をとる。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。

「森から海へ」評議員、NPO法人生物多様性研究所あーすわーむ代表理事。

 

 

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