[動物博士の生きものがたり] 南米では食用にされる世界一大きなネズミ:カピバラ
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今回は、カピバラという動物を紹介します。
カピバラは、最近ではキャラクター化されてグッズの販売もされるなど、ちょっとした人気者になっています。「カピパラ」とか「カビバラ」とも言われますが、英語ではCapybaraなので、カピバラが正しい名前です。南米に住んでいるのですが、南米先住民の言葉で「草を食べる者」を意味する語が、スペイン語や英語に取り入れられたとされています。
さて、このカピバラは、現在生きているネズミの仲間で最大の動物です。雌雄とも最大で体長130cm、体重60kgにも達します。写真は動物園で撮影したものですが、横に少し映っているベンチと比べると、その大きさのイメージが湧くかと思います。前足の指は4本、後足の指は3本です。
カピバラは、水辺で生活しています。水辺の柔らかい植物を好み、外敵が来ると水の中に逃げ込みます。足指には小さな水掻きがついています。さらに、目と耳と鼻が頭の上部についているので、頭の大部分を水に沈めて、目と耳と鼻を出して水中に隠れて、周りの様子を伺いながら呼吸をすることができます。食べ物も危険回避も、水辺に依存しているのです。

南米には、このカピバラをはじめとして、体長が60cmを超える大型のネズミの仲間が何種類もいます。他の大陸にも大型のネズミの仲間はいます。例えば、北米のビーバー、アフリカのヤマアラシなどです。しかし、南米ほど多くの種類の大型のネズミはいませんし、カピバラほど大きなネズミの仲間はいません。さらに、南米では体重が数百キログラムから、最大で1トン近くに達したと推定される巨大なネズミの化石も見つかっています。南米は大型のネズミが繁栄している大陸なのです。
ではなぜ南米にこのような大型のネズミたちがいるのでしょうか。南米大陸は、ある時代まで北米大陸やアフリカから独立した大きな「島」だったのです。その時代には、南米で独自に進化した有蹄類がいましたが、のちに北米から入ってきた有蹄類ほどの競争力は持っていなかったと考えられています。さらに、現代のネコ科やイヌ科のような、高度に進化した肉食獣はほとんどいませんでした。ネズミは、その頃にアフリカから、海を渡ってきたと考えられています。新天地の南米に入ったネズミは、さまざまな方向に進化しました。そして、ネズミの一部が大きくなる進化を遂げたのです。「大型で大量の植物を食べる」という生活様式をとるライバルの動物が少なかったので、ネズミの仲間の何種類かがそのような生活様式を獲得したというわけです。
ところが、その後、南米大陸は北米大陸と地続きになりました。そうすると、北米大陸から、進化したタイプの有蹄類などの草食動物が南米大陸に入ってきました。ウマの仲間やシカの仲間などです。そして、それを追って、進化したタイプの肉食獣もやってきました。このような動物がやってくると、南米の有蹄類も肉食獣も競争に負けて滅びて行きました。
大型のネズミの仲間たちも、これらの新しいライバルや捕食者と対峙しなくてはなりませんでした。先述の最も巨大なネズミは、同じように巨大な草食獣との競争に敗れたのか、滅んでしまいました。しかし、ネズミの仲間は北米から草食獣や肉食獣が入ってくる前にさまざまな環境に適応し、何種類もの大型のネズミが生活していました。やってきた草食獣や肉食獣の種類も他の大陸ほどは多くなかったようです。大型のネズミの仲間たちは、水辺や湿地を利用したり、大きくなりすぎずに林内で隠れて生活したりしながら捕食者から逃れ、草食獣との直接の競争を避け、さらに繁殖の速さを武器に、今まで生き残ってきたと思われます。他の大陸では、ネズミの仲間がさまざまな環境に進出して大型化する前にライバルである有蹄類が繁栄してしまったので、ネズミの仲間は特殊な環境に進出したものを除いて大きくなれなかったのです。動物たちは、他の動物たちと競争しながら、生活空間や生活環境、食べ物、休み場所など、生活様式が重ならないように生活しています。これを、生態的地位(ニッチ)をめぐる競争と排除と言います。ビジネスの世界でも、商売上のやり方で隙間を狙うことを、「ニッチを取る」とか「ニッチャー」とか、言われることがありますが同じようなことです。他の企業と全く同じことをやっていると、競争が激化し、やがて負けた方が滅びるのです。誰もやっていないことをやれると、「ニッチを取って」生き残れるのです。
さて、このカピバラを食肉として利用している地域があります。南米のベネズエラなど一部地域では、このカピバラの肉を食べ、食肉用に飼育しているそうです。脂肪が少なく赤身で、食べやすいそうです。たしかに、食肉加工にする際の歩留まりはよさそうです。私は、40年ほど前にカピバラ肉が日本の給食に利用されているという新聞記事を読んだ記憶があります。しかし、少し調べたのですが、そのような記事は見つかりません。私の記憶違いなのかもしれません。
人馴れしやすく、飼育しやすいカピバラは多くの動物園で飼育されています。どこかの動物園でじっくり観察してみてください。
南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭をとる。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。 「森から海へ」評議員、NPO法人生物多様性研究所あーすわーむ代表理事。