[動物博士の生きものがたり] 動物と植物の闘い②

[動物博士の生きものがたり] 動物と植物の闘い②

太古の昔から、植物は多くの動物の食料となってきました。先月号では、植物の防衛作戦と、それに対抗して植物の苦味を避けたり、毒を無毒化したりするなどの能力を身につけた昆虫を紹介しましたが、今月は食べられる側の植物の反撃をとりあげます。

アカシアの木は、キリンに葉を食べられ始めると、渋味のタンニンという毒を増産して自己防衛します。同時に、傷口から化学物質を放出して、周囲のアカシアに“緊急警報”を発します。それを受け取ったアカシアもタンニンを増産して葉に送ります。キリンは、どの葉を食べても渋味が強くなり、その近くでは美味しい葉を食べることができなくなります。ですから、この警報の届いていない遠くまで移動しなければなりません。アカシアは共同防衛をしたわけです。

もっとすごいのは、この“緊急警報”で、葉を食べている昆虫の天敵を呼び寄せる植物です。先月も紹介した満井喬先生のホームページ(ドクトル・ミツイの生物学雑記帳)に、これらの例が紹介されています。

マメの葉は、ナミハダニに食べられると、揮発性物質を出してこのダニを食べるチリカブリダニを呼びます。アブラナ科の植物は、モンシロチョウの幼虫に食べられると揮発性物質を出して、この幼虫に寄生するハチを呼びます。トウモロコシも、ヨトウムシの幼虫に食べられると寄生するハチを呼びます。実験によると、葉に傷がついただけではダメで、ヨトウムシの唾液がつかないと揮発性物資が出ないそうです。

まさに敵の敵は味方です。しかし、植物は「考えて」揮発性物質を出しているわけではありません。警報で呼び寄せられる昆虫なども「助けに来る」わけではありません。単に餌や寄生する相手の存在を植物の警報で知って集まってくるだけです。

そして、前回紹介した植物の産毛「トライコーム」ですが、ナス科の植物がもつトライコームにも葉を食べたイモムシを食べてくれる昆虫を呼び寄せる成分があることがわかってきたそうです。

それぞれの生物が考えていないのに、このような連鎖が生じるのが、進化の中で形成される生態系なのです。自然界、恐るべし。

<一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。>

南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭を取った。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。

「森から海へ」評議員、NPO法人あーすわーむ代表理事。

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