【動物博士の生きものがたり】動物も感極まるのか

【動物博士の生きものがたり】動物も感極まるのか

 宮城県の離島できれいな夕焼けに出合いました。太陽が対岸の牡鹿半島に沈みつつありました。その時、ニホンザルが次々にやってきて、海辺の崖に設置された手すりに座ったのです。そして、みんなで夕焼けを見ているのです。

サルは十頭以上。後ろ姿しか見えないので、本当に夕焼けを見ているのかわからないのですが、どのサルも顔は夕焼けの方向に向けています。その状態が、暗くなるまで五分以上続きました。

発情期にメスのお尻が赤くなることから、ニホンザルは色が見えると言われています。私には、彼らが夕焼けを見て、何かを感じていたように思えてなりません。同様の観察はチンパンジーにもあります。京都大学におられた鈴木晃さんは、タンザニアで一頭の若いチンパンジーが、高い木に登って、暗くなるまで夕陽を眺めているのを観察しています。

 動物の中でも、チンパンジーには高度な感情があるといわれています。京都大学名誉教授の杉山幸丸さんは、ギニアの森で、チンパンジーの群れがイチジクの実を食べようとするところを観察しました。イチジクの木は大木で、幹が太すぎて、チンパンジーには登れません。そこで、近くの木の枝を折りとって、イチジクの枝をたぐり寄せようと試みたのです。

何頭かが失敗した後、五十分ほど経って、ついに一頭がイチジクの枝を掴むことに成功しました。そのチンパンジーは「ケャーッ」と声をあげながら木に登ると、イチジクを食べることも忘れて、興奮して樹上を走り回ったのです。その後、全員が登ることができて、チンパンジーたちは樹上でひしひしと抱き合ったり、走り回ったりの大騒ぎになったそうです。彼らは感激の絶頂に達したのです。

 私たち人間だけが感情を持つ特殊な生き物だと思うより、多くの動物にも感情があることを忘れないようにしたいものです。

<一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。>

南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭を取った。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。「森から海へ」評議員、NPO法人あーすわーむ代表理事。

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