チャチャ日記18: 僕には2人の娘がいる。
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僕には2人の娘がいる。
しかし、結婚して子供を産んだのは長女だけなので孫は一人しかいない。
名前をマナと言う。マナという言葉は太平洋の島々に住んでいるマオリ族が神秘的な自然の力という意味で使うそうだ。
長女はオーストラリアに住んでいるのでその名に親しみを感じたのだろう。
僕がマナと会うのは一年に一度の来日の時である。
孫娘が日本にやって来ると、僕ら夫婦はてんてこ舞いになる。
遊び盛りのマナのパワーは計りしれない。ハーフの子供のパワーは日本の子供の2倍あるのじゃないかと思うほどだ。
ゲームや虫捕り、海遊び、遊園地巡りや温泉旅行などなど、短い滞在時間を一時も無駄にするものかと遊び尽くすので妻も僕もへとへとになる。
そんなマナがオーストラリアに帰国する日、マナはとても悲しんでくれる。
スーツケースを運び出し、家の前で別れを告げる時、「帰りたくないよぉ~~」と言って一人一人とハグをする。
おばぁちゃんとハグして「ひぃばぁ~」と言って泣き、僕とハグして「じぃじぃ~」と言って泣き、僕の妻とハグして「ばぁばぁ~」と言って泣く。
そして、最後にチャチャとハグして「チャチャ~~」と言って泣くのだが、その時が一番長くて大声で泣くのだ。
僕と妻があれほど世話したのに、何よりも別れを惜しむのはチャチャだというところがなんとも複雑だ。
犬というのは不思議な存在だ。
単なるペットのはずなのに、いつの間にか友達になり、そして家族になり、もっとも愛おしい存在になってしまう。
97歳になるおばぁちゃんが乳癌になって自宅で療養した時もそうだった。
おばぁちゃんを自宅で看取るために僕は毎日泊まり込みで介護していたのだけど、チャチャを連れていった時が一番喜んだ。
「チャチャ~~」と言って抱きしめて、鼻にキスをしたりする。
チャチャの方は「何するの?」と戸惑った顔をするのだけど、おばぁちゃんはいつもとびきりの愛情表現をした。
どんなに辛いことがあっても、犬の無邪気な顔を見ていると心が癒される。
チャチャが来てから家の中が明るくなった気がする。チャチャが笑いと癒しを運んできてくれたのだ。
その後、おばぁちゃんの病状は悪化して、救急車で緊急搬送された。
病室に犬を連れて入ることはできないので、チャチャの写真を引き伸ばして寝ているおばぁちゃんからよく見える位置に貼ってあげた。
肺の中に水が溜まって息が苦しかったのに、チャチャの写真を見ると「可愛いねぇ~」と目を細めたおばぁちゃん。
1週間後に、おばぁちゃんは永遠の眠りについた。
お棺の中にたくさんのチャチャの写真を入れてあげた。
きっと天国でおばぁちゃんはチャチャの写真を見て「可愛いねぇ~」と呟き癒されているのじゃないだろうか。
そう考えるだけで僕の気持ちも少し楽になる。
