カッコウ 子育てをめぐる軍拡競争

カッコウ 子育てをめぐる軍拡競争

カッコウといえば、他の鳥に卵を預けて育ててもらうことで有名です。カッコウは、ホオジロなどの親鳥が卵を産み終わると、親鳥の留守中に、卵を1個だけ産み落とします。この卵の色と模様は卵を託された親鳥(以下、宿主)の卵そっくりです。カッコウは、時には数を合わせるために、宿主の卵を1個持ち去ります。カッコウに托卵された宿主は、それと知らずに卵を抱いて温めます。カッコウの雛は宿主の卵より短い期間である10日から12日で孵り、まだ雛が孵っていない宿主の卵や先に孵った雛を自分の背中で押して巣から落とします。もちろん宿主の卵や雛は死んでしまいます。時には、宿主の雛が先に孵って大きく成長してしまっていることがあるらしく、その場合はカッコウの雛が宿主の雛を押し出すことができずに一緒に育って行くこともあるそうです。そして、宿主は自分の子供を捨てたカッコウの雛を懸命に育て上げるのです

カッコウが托卵する鳥は、ホオジロの他にオオヨシキリやモズなどが知られています。これらの鳥の卵の模様はそれぞれ異なっています。卵の殻のベースの色が異なっていたり、模様が異なっていたりするのです。不思議なことに、カッコウの卵の色や模様は自分が托卵する鳥の卵に似ているのですどうやら宿主の卵に合わせた色や模様の卵を産むのではなく、自分が産める色や模様の卵と似た卵の宿主を選んでいるのではないかとわれています。

しかし、宿主も騙されているばかりではありません。これらの鳥の中には、カッコウに托卵されると、卵の細かな模様の違いを見つけてカッコウの卵を捨てたり、巣を放棄したりする行動を取るようになった個体が現れるようになりました初めは騙されていたのですが、長い年月の末、托卵をある程度見分ける対抗手段を発達させてきたのです。

鳥類の研究者・中村浩志先生の研究によると、1970年頃にカッコウは新しい托卵先を見つけたそうです。カッコウは分布を広げてきたオナガと出会ったのです。オナガはカッコウに托卵されたことがないので、対抗手段を持っていませんでした。カッコウの多くは托卵先をオナガに代えたようです。しかし、カッコウは当初は新しく托卵を始めたオナガの卵と似た色や模様の卵を産んでいませんでした。それでも、オナガはカッコウに托卵されたことがなかったので、卵を見分けることも捨てることもなかったので、カッコウの托卵は成功したのです。

しかし、やがて、オナガはカッコウの托卵に気づきます。自分の卵に似ていない卵を見分けて、卵を捨てたり、巣を放棄したりするなどの対抗手段を確立し始めました。そうすると、カッコウの中でも、オナガの卵に似ていない卵カッコウは子供を残すことができずに滅んで行きました。一方で、オナガの卵に似ている卵を産カッコウは生き残りました。そうすると、今度はオナガの中で、もっと正確に卵を見分けることができる個体が子供を残し、それができないオナガは子供を残せなくなって行くのです。つまり、カッコウではオナガの卵に似た卵を産む個体が生き残り、オナガではカッコウの托卵を見抜ける個体が生き残るようになるのです。騙せるか、見抜けるかの軍拡競争す。

カッコウが他の鳥に托卵するようになった過程は明確ではなくいろいろな説があります。しかし、一旦托卵が生じると、このように托卵する側と托卵される宿主の間で、生き残りをかけた軍拡競争が進んで行くのです。

日本にはカッコウの仲間が4種類やってきます。カッコウ、ホトトギス、ツツドリ、ジュイチです。いずれも夏鳥で、夏に日本に渡ってきます。姿を見る機会は多くないと思いますが、どの鳥も鳴き声が特徴的です。カッコウは「カッコウ」と鳴きますが、ホトトギスは「テッペンカケタカ」を繰り返し、最後に「ホトトギス」と呟くような声を出します。ツツドリは、「ボボ・ボボ・ボボ」と筒を打つように、ジュウイチは「ジュウイチ!!」と鳴きます。野山でこれらの鳴き声を聞いた時は、この托卵をめぐる鳥たちの駆け引きを思い出していただけたらと思います。

 

南 正人:理学博士。麻布大学特命教授。軽井沢で15年間自然ガイド業を行った後、麻布大学で13年間教鞭をとる。宮城県の離島・金華山でシカの研究を35年間続けている。

「森から海へ」評議員、NPO法人生物多様性研究所あーすわーむ代表理事。

 

ブログに戻る