
チャチャ日記12
ヨーロッパから日本に赴任して数年間働いた後、久しぶりに故郷に帰った外国人の話が面白かった。
その外国人、自国に帰って一番驚いたことは「なんて街の中に犬の糞が多いんだ!」だったそうである。
来日する前は街の中の犬の糞などまるで気にならなかった。
ところが日本で長く滞在しているうちに、犬の糞がない街の風景に慣れてしまい、故郷の街の不潔さに気付かされたのだという。日本人はとても清潔好きだ。
そして何より他人に迷惑を掛けちゃいけないという教えが徹底している。
犬の糞は飼い主が責任を持って片付ける。おしっこをした場合はペットボトルの水を振りかけて臭いが残らないようにする。そこまで気の遣っている国民は世界中探しても他にはいないだろう。
フランスでは犬の糞を片付けてはいけないのだという。犬の糞を片付ける専門の清掃員の人の仕事を奪ってしまうことになるからだそうだ。
世界中の人が日本にやって来て「街の中がきれいですね。」と言う理由は、もしかしたら犬の糞がないからかもしれない。
僕もチャチャと散歩する時は、チャチャの糞の処理には最新の注意を払う。
しかし、チャチャがどのタイミングで便意を催すかはわからない。辺りの匂いをくんくん嗅ぎ始めて、くるくる回わりだした時は要注意だ。
チャチャには好みのトイレスペースがいくつかある。マンションの前の植え込み、お寺の境内のイチョウの大木の前などは特にお気に入りだ。
でも時には「ここだけは止めてくれ!」と言いたくなる所でもよおすこともある。
その一つが高級マンションのエントランスである。千駄ヶ谷には一区画1億円から3億円もする高級マンションがいくつもある。
そんな億ションのピカピカの玄関の自動ドア前でウロウロし始めた時は慌ててしまう。
「ダメだ、ダメだ、ここだけはダメだ、道路の方に移動してくれ!」と話し掛けながらリードを引っ張る。
チャチャにしてみれば何故だか良くわからない。「何処でもいいじゃないか、ここでしたいんだ!」と言いたげだ。
さらにもう一つ。
チャチャの困ってしまう所は高級外車の前である。
「ここもダメだよ!」と声を掛けるのだが、チャチャは何故だかわからない。
「いいか、チャチャ、これは最高級車なんだ。ベンツSクラスって言うだ。この車の前は避けなきゃイカン!」
そんな忠告を無視して脱糞し始めたチャチャに慌てた。
僕は持ち主が出てこやしないかと冷や冷やながら、チャチャがコトを済ますのを待つしかない。
ベンツやポルシェの前で糞をしたくなるのはセレブな生活に妬みがあるからなのか?
「でもな、毎日鹿肉を食べているおまえだって十分にセレブな暮らしをしてるんだぞ!」と、僕はチャチャに語り掛けたのだった。