最も優秀なハンター:ネコ

最近はネコブームのようで、テレビコマーシャルでもよくネコが出てきます。かわいい仕草やのんびりした寝顔などに、癒やされると感じる人は多いでしょう。私も、十年ほどネコと一緒に暮らし、楽しい思いをさせてもらいました。今もその時の写真をスマートホンの待ち受け画面にしています。

 ネコの魅力のひとつは、優秀なハンターの持つ美しさでしょう。丸顔の理由である噛むための筋肉、鋭い歯、音もなく歩ける肉球と格納できる鋭い爪、高く遠くまで跳べる筋肉と柔らかい体、さまざまな姿勢で発揮される平衡感覚と反射神経。これらはすべて、陸上のあらゆるところで獲物を襲うために進化してきたのです。

 この優秀なハンターは、他の野生動物にとっては、脅威でもあります。完全に室内で飼われているネコ以外は、飼いネコであろうと、野良ネコであろうと、野外をうろついています。彼らのほとんどは、人間から何らかの形で餌をもらっているにもかかわらず、野生の生き物を襲っています。小さな昆虫から、野鳥、野生のネズミやリス、ウサギなどです。

私はかつて奈良公園で、ネコがムササビを殺すところを目撃しました。小笠原島ではネコが絶滅危惧種の野鳥を襲って大きな問題になったことがありました。私が大学在職中に学生が軽井沢で野良ネコの食物を調べたところ、ペットフード以外に、野鳥や野生のネズミを食べていました。町のネコが何を食べているかはまだわかりませんが、少なくなっているスズメを食べているかもしれません。海外での調査では、ネコが野生動物の絶滅の原因となっているところもあります。

〈ネコを屋内に留めるのはかわいそう〉と思う人もいるかもしれません。しかし、ネコはイヌほど運動が必要ではありません。家の中で遊べるようなちょっとした工夫で充分です。飼いネコを屋外に出すことは、交通事故やネコ同士の喧嘩による病気の感染等、危険がいっぱいです。さらに、近年では人と野生動物の共通の感染症を運ぶことも指摘されています。安全で、生態系にも影響を与えない室内飼いが一番です。先述の小笠原では、ネコを捕まえて本土に移送し、獣医師会が協力して、ペットとしてもらわれていきました。

 

<一般社団法人倫理研究所「職場の教養」誌に「野生の教養」というタイトルで掲載された文章を加筆・修正し、写真をつけました。>

保護されて室内で飼われているネコ