【夢旅 060】白銀 ”映え” で3割増?

 

犬のヨロコビと猫のユーウツ

小さな湖「曽原湖」が凍ったという噂を聞きつけて、寒い中、猫なんだからよせばいいのに、福島県の裏磐梯までちょいと行ってきた。と、今回は冬のクソ寒旅バナをするわけだけれど、その前にいきなりの脱線。裏磐梯とも凍った湖とも犬ともまったくカンケーない話をしちゃう。
猫は狩で獲物を得ても、新しい獲物が目の前に現れた途端、狩ったばかりの獲物をほったらかして新しい獲物に向かっていく。猫にはそんな移り気な習性がある(これホント)のだから、話が脱線することなんて当たり前のことなのだ!(エラそうに言うことじゃないけどね…)

で、なんの話かというと、英語のオモシロ誤訳の笑える実話。少し前にホーリーに音読させた本(内館牧子著「女盛りはモヤモヤ盛り」・幻冬舎文庫)の中の話なんだけど、あまりにもおかしくて聴いたあとしばらくニヤニヤが止まらなかったから、みんなにもおすそ分けしてあげる。

まずは、日本のおじさん政治家の恐ろしいほど稚拙な国際感覚と英語力のお話。
とある政治家がアメリカでスピーチをしたとき、「貴国と我が国の因縁は浅からぬものがあります。なぜなら、貴国のことを日本では “米国” と書くし、日本の主食は “米” だからです。」……って、だから何なの? 通訳の人が「どう訳せってんだよ。」と、めっちゃ困ったことは言うまでもない。
また、別のおじさん政治家は、外国の高官との交渉を終えての別れ際、無謀にも通訳を介さずに英語で言ったそうだ。「ワン・プリーズ」って。「ひとつヨロシク」っていうことなんだろうね。ほぼコントだよね。やばくね?

翻訳ソフトを使って翻訳すると、たまにトンチンカンな訳が出てきて笑わせてもらうけど、生身の人間の誤訳はあまりにも意表をついていて面白すぎる。ぜひ猫語でも挨拶してもらいたいもんだ。

そしてもうひとつはあるラガーマンの切実で笑えるお話。
遠征試合で外国を訪れたラブビーチームの練習中、一人の選手が倒れて脚を抱えて激痛にのたうってたんだって。チームの主軸の選手がすぐに駆け寄ると、すぐに「肉離れ」だなって直感して痛がる選手にたずねたところ、本人も「肉離れ」だとうなずいた。
そして、主軸の選手が傷ついた選手を支えて病院まで連れて行ったんだけど、外国の病院だから当然医師も外国人なわけだ。ラガーマンはふたりとも英語はまったくダメ。でも、何とかして「肉離れ」を外国人医師に伝えなくちゃいけない。悩みに悩んだ主軸の選手は医師にこう告げた。
「ミート・バイバイ」
痛がる選手も苦悶の表情で、
「イエス、ミート・バイバイ、ミート・バイバイ」と訴えたそうだ。
肉、つまりミートが、離れて行った、バイバイしたってことらしい。
もちろん医師には伝わらない。ただ、その後、日本語ができる医療スタッフのおかげで無事に治療してもらえたとか。
ボクはこの話を聞いたとき、笑いながらもマジで感動した。だって、「肉離れ」を「ミート・バイバイ」って、この発想力、すごくね?

なんてことを書いてるうちに、もう半分きちゃった…。
で、本題の裏磐梯でのお話。
曽原湖っていう小さな湖は、小さいがゆえに冬になると全面的に氷結して、厚い氷の上には雪が積もり真っ白真っ平らの雪原に変わるんだ。雪原の向こうには福島のシンボルマウンテン「磐梯山」が、男性的な山容の二つの峰に雪をいただいて、さらに雄々しく聳えてるんだ。
このまるで外国のような風景の湖畔に「クオレ」という宿がある。そこは決して大きくもないし、格別に施設が充実しているわけでもないんだけど、とにかくドッグフレンドリーで犬に優しい(もちろん猫のボクにも優しい)。館内を犬が歩き、食べるのも寝るのも犬と一緒。食堂のソファで犬と一緒にまったりしている人、外で犬と雪遊びをする人、キッチンを借りて手作りフードを作る人、暖房の前で鹿ジャーキーをむさぼる猫。ここでは犬も人も猫も自由なんだ。

雪が小降りになると、犬たちがソワソワしだす。雪原を走りたくてウズウズしてるんだ。玄関へと続くドアの前でブンブンとしっぽを振っている犬もいる。そんな犬たちの誘いに乗って人は立ち上がって長靴を履く。そして、湖上へ。
というと、雪国の優雅な午後のひとときみたいな感じだけど、寒いんだ、これが。
「ぽんずさん行くよ!」
ホーリーのやつ楽しそうにそんなこと言うけど、ボクは猫だ。雪なんて見てるだけでユーウツになるっての。
「やだね!」
鹿ジャーキーをかじりながら、ボクが外へ出ることを拒否っても、ホーリーはさして残念そうな顔もせずに犬たちの方へ走って行った。

湖上には、オレンジやピンク、ブルーやグリーン、色とりどりのウェアを着た犬たちがそりゃもう楽しそうに走り回っている。雪が深いところでは、走るというより泳いでいるみたいだ。脚や口周りに雪玉ができようと、岸近くの氷の薄いところを踏み抜いて湖に落ちようとおかまいなく嬉々として走っている。(土の温度のせいか、湖の岸近くは得てして氷が薄いから注意してね)
防寒のためや、身体中に雪玉ができるのを防ぐためにウェアを着る犬も多いんだけど、カラフルな服を着た犬たちって、何だかいつもよりもかわいらしく見えるような気がする。浴衣やスキーウェアを着た人が3割増でかわいかったりカッコよく “映える” けど、犬の場合も同じなのかなぁ。ボクも服を着たらカッコよく見えるんだろうか。3割増の犬たちを見ていたら、ボクもちょっと着てみたくなっちゃった。

それにしても、♪犬はヨロコビ庭駆けまわり…♪ って、童謡の歌詞にもあるけど、犬っていう生き物は、なんだってあんなに楽しそうに雪の中を走り回るんだろうね。
なんて思っていたら、犬たちと同じくらい楽しそうに湖のへりを歩いている人がいて、危ないなぁって思っていたら案の定、ドボンと湖に落ちた。ただ、岸辺だから浅く、水に浸かったのは膝上くらい。足の付け根まである超長靴を履いてるから濡れることはないみたい。それで、次々と氷を踏み抜いてドボンドボン落ちてる。ヘラヘラ笑いながら。
あいつバカじゃねーの、なんて思いながらももしやとの思いが頭をよぎる。あーやっぱそうだよ。バカなあいつはやっぱりホーリーだよ…。長靴がうれしくって、わざと水たまりに入ってはしゃぐ子供並みじゃん。バカなあいつ、去年は腰上まで水に浸かったくせに懲りてないんだろうか。世話が焼けるよ、まったく。

ちなみに、「肉離れ」って英語では「muscle strain」とか「pulled muscle」っていうらしいよ。もちろん、グーグル教授仕込み。