【夢旅 055】晩秋を駆ける風の犬たち ②

 

 

 

 

一度は見捨てられた風の犬たち

ボクは、野山を自由に駆ける犬のことを「風の犬たち」って呼んでるんだ。毛の長い犬は、耳やしっぽや背中の毛をなびかせて、それはもう、見るからに “風の犬” って感じだし、毛の短い犬は、体の周りの空気をなびかせて風を引き連れながら走ってるみたいなんだ。どっちもマジでかっこいい。猫のボクはすごく憧れちゃう。風の犬たちみたいに、ボクも野生的でかっこよく走ってみたい。

そういえば、ボクたち猫は犬とほぼ互角のスピード(時速50km前後)で走れたりするんだけど、スピードが互角ってことにいまひとつ納得がいかないので、”猫と犬ホントはどっちが速いのか選手権” なるものを勝手に開いてみた。出場選手は、犬組がグレーハウンド選手とサルーキ選手、猫組はチーター選手とピューマ選手、そして家猫代表のボク。

グレーハウンド選手は、手足が長くてすごく速そう。で、顔ちっちゃ。サルーキ選手はというと、こっちもスラッとした体型でやっぱり速そう。そして、大きな耳としっぽに生えた長い毛が醸す風の犬感がすごい。
一方の猫組。しなやかな体でキュッと締まった腹部、バランスが取りやすそうな長いしっぽ、そして黒い斑点模様。我らがチーター選手の姿には非の打ちどころがない。ゼッタイ速いでしょ強いでしょ。で、顔ちっちゃ。ピューマ選手は色こそ地味だけれど、鋭い眼光と筋肉質な体で相手を威嚇する、どちらかというとオラオラタイプの選手だ。そしてボクはというと、白サバの模様にむっちりとした腰回り、たるんたるんの腹に大きめの顔、自分で言うのもなんだけど、まったく速さを感じない。

結果はというと、分かりきったことだけれど、家猫代表のボクはぶっちぎりのビリ(時速50km前後)。1位は猫組のエース、チーター選手で時速100km以上の超俊足。2位は、同じく猫組のピューマ選手で時速約80km。3位は犬組のグレーハウンド選手で、時速約70km。4位は僅差、時速70km弱のサルーキ選手でした。
だからそれがどうした、というご意見はごもっとも。でも、ボクはひとつ言いたい。猫をナメてはいけない。人間の100m走の世界記録保持者ウサイン・ボルト選手(9.58秒)の最高時速が44.6km。なんと、ボクたち家猫はボルト選手よりも速いんだ。そう、人間は猫よりも速く走れないんだ。ボルト選手の足元にも及ばないホーリーなんか、ボクの相手ではない。ホーリー、キミはもっとボクのことをリスペクトすべきだね。

えっとー、なんの話だっけ?
そう、風の犬たちの走る姿がかっこいいって話だった。

風のように走るFT(フィールド・トライアル:鳥猟犬の競技会)の犬の中に元保護犬がいるって知ってた?(今回の写真で登場する犬はすべて “元保護犬”)
保護犬ってことは、一度は飼い主に見捨てられたけど、運よく誰かに保護された犬ってことだよね。ボクも元保護猫で、一度は捨てられたけど、グッチー先生(獣医師)に保護されて、なんの因果か、いまホーリーと暮らしている。不届き者に見捨てられた経験を持っているという点では、ボクと彼らは「元保護」つながり。猫と犬だけど、どうしようもなく仲間意識を持ってしまう。

狩猟には「猟期」というものがあって、ザックリ説明すると、北海道が10/1~翌年1/31まで、北海道以外の区域が11/15~翌年2/15が猟期と定められている。対象にする動物や都道府県によっては、多少期間が前後するけど、細かいことはここでは割愛しちゃう。
カッツアイ(知ってる人いる?)。

猟期というのは、その期間なら狩りをしてもいいですよっていう期間で、鳥猟犬のかき入れどき。鳥猟犬たちは野山を走り回って人間のために獲物である鳥を一生懸命に捜すんだ。猟期の間、何回も何回も人間のために野山を走る。そして、猟期が終わると、そのまま野山に置き去りにされる犬がいる。理由はさまざま。老犬になったからとか、しっかり仕事をしないからとか、都会で飼うのが大変だからとか…。もちろん、置き去りにされる犬は全体のごく一部だよ。だけど、春になると野山で保護される猟犬(鳥猟犬や獣猟犬)が増えるのは事実なんだよね。

なんで捨てちゃうかなぁ。なんで相棒として大切に扱わないかなぁ。なんで家族として最後まで一緒にいないかなぁ。ホント、腹立つ。
ボクは、ホーリー(我が執事)を決して見捨てたりはしない。ときどき置き去りにしちゃうけど(ヤツは何日かかっても自分でちゃんと帰ってくる)、ぜったいに見捨てたりしない。ボクは、相棒を簡単に見捨てるようなヤツが許せない。そんな人間には、朝起きたら犬語しかしゃべれなくなって手が犬の手になってるからパンツが穿けなくなる呪い、をかけてやる。というくらい許せない。
ついでに、ボクを捨てた不届き者には、駅の自動改札機を通ろうとするとなぜか招き猫のポーズのまま固まってしまう呪い、をかけておこう。

でもね、一方で保護されてペットとして暮らすために必要なトレーニングを施された後、新しく出会った優しい人たちに「ふつう」に愛されて家族の一員として暮らしている犬もたくさんいるんだ。FTのフィールドでは、そういう元保護犬に出会うことができる。遊んでいるのか仕事をしているのかわからないような時もあるけど、彼らはとにかくみんな嬉しそうに目をキラキラさせて走っている。不遇な時があったんだとは微塵も感じさせないくらい楽しそうに走っているんだ。
もしかしたら、そんな彼らは一握りの幸運に恵まれた数少ないラッキードッグなのかもしれない。でも、ボクは、一度は見捨てられた元保護犬が「ふつう」に愛されて幸せに暮らし、風のように野山を走っているということを素直に喜びたい。彼らは、本当にかっこよく風のように、そして、めちゃくちゃ楽しそうに走るんだ。そんな彼らを見ていると、ボクも風になりたくなってくる。でも、猫はどちらかというと、野山では「風」じゃなくて「風邪」になるかもなぁ…。