【夢旅 050】どんだけコイでも足りゃーせん

秋の湖上は騒がしい

操舵手 「船長、我々の船が同じところをグルグル回っています!  港に帰れません!」
船長  「ヨーソロー。」
操舵手 「あ、いや、だから、ヨーソローじゃなくって、ヨクナイソロー!」
船長  「直進、ヨーソロー。」
操舵手 「だーかーらぁー、グルグル回ってるって言ってんだろ!」
漕ぎ手1 「足がパンパンです。もう漕げません…。」
漕ぎ手2 「お前、サボってんじゃねーよ。こっちだって足パンパンなの!」
船長&漕ぎ手2 「漕げやぁ〜!」

秋の軽井沢、タリアセン。ここは塩沢湖を中心とした、自然と芸術・文学・歴史的建造物などが融合した “The 軽井沢” とも言えるような優雅な時間を静かに堪能する施設……のはずなんだけれど、湖上には笑いと怒声が響き渡り騒がしいったらありゃしない。
どでかいコイが水面に浮かぶあらゆるものを丸ごと飲み込むような勢いで大きな口をパクパクさせ、カモが「バーカバーカ!」と言うように嘲笑っている。
船長のボクは、操舵手のホーリー、漕ぎ手1のモトさん、漕ぎ手2のミクさんをクルーに従えて、我が船で湖の沖へと漕ぎ出した。初めのうちは湖畔の紅葉を眺めたり子ガモを追いかけたりして穏やかな航海(湖だけど)をしていたのだけれど、湖畔と小島をつなぐ木の橋の下をくぐるあたりから様子がおかしくなってきた。
操舵手のホーリーが「全速直進ヨーソロー!」などと叫ぶと、漕ぎ手2のミクさんが「はいな、ヨーソロー!」と復唱する。船(足漕ぎボートだけど)はどんどん橋に近づき…。

ドカン!  と、橋桁にぶつかるかと思いきや、すんなりとクリア。船内に「おおお〜っ!」という歓声があがった。そして今度は漕ぎ手1のモトさんが「船長、グルッとUターンしてもう一回橋の下をくぐりましょう!」と悪ノリし、操舵手ホーリーが「面舵いっぱぁ〜い、ヨーソロー!」と、すかさず舵をきる。
ちなみに、面舵(おもかじ)は右回り、取舵(とりかじ)は左回り、宜候(ようそろ)は「船を直進させなさい」という意味の操舵号令だからね。

ぐるりとUターンした我が船は、真っ直ぐに橋の真ん中へと向かい、またしても難なく橋の下をくぐった。完璧だ。完璧なワンチームだ。ボクのクルーは、見事に難しいミッションを一度ならず二度もクリアしたのだ。(足漕ぎボートでただ橋をくぐっただけなんですけどね)
しかし、帰港するにあたってワンチームの結束はあっけなくポンコツと化した。けしからんことに、操舵手のホーリーが船長(ボク)の命令を無視するようになったのだ。そして冒頭のワンチームのカケラも感じられないやりとりとなるのである。
漕げやぁーーーーーーーーーーっ!

さて、軽井沢といえば旧軽井沢の品よく賑やかな街並みや優雅な別荘暮らしを思い浮かべるかもしれないけど、とても自然の豊かなところでもあるんだ。自然が豊かだから、シカ、サル、イノシシ、キツネ、リス、そしてクマ、いろんな野生動物たちが暮らしている。軽井沢というところはペットに優しい街なんだけど、野生動物にもけっこう優しい街なのかもしれない。ここでは別荘地などにときどきクマが出るんだけど、見つけたらすぐに駆除ということではなく、里に降りてきたクマを奥山に戻すような対策をとっている。

そのひとつが「ベアドッグ」。直訳すれば「熊犬」だね。
ベアドッグとは、クマの匂いとか気配を鋭く察知できるように特別に訓練された犬のこと。人の居住エリア近くでクマの匂いや気配を察知すると、大きな声で吠えたてて、クマを森の奥へと追い払うのが仕事。クマは学習能力がすごく高いから、追い払いを繰り返すうちに「ここはいてはいけない場所なんだ」ということを理解するようになるんだって。ベアドッグはクマを追い払うだけで、クマに襲いかかるようなことなしない。一定の距離を保ちながら追い立てていくから、クマも犬も傷つかずに済むんだ。

ベアドッグは、クマの匂いに反応するように訓練されていて、クマの目撃現場に駆けつけた時、現場にクマがいなくても匂いでクマの移動経路を特定して、付近の安全を確認することができるんだ。移動経路が分かれば、そこを重点的に警戒することができるから、その後、クマが同じところから侵入するのを防ぐことができるんだとか。犬の嗅覚(きゅうかく)ってすごいね!
ベアドッグ、ぜひ会ってみたいなぁ。

ベアドッグになるのはどんな犬種かというと、「カレリア犬」という犬種が用いられるとのこと。カレリア犬は、ロシアとフィンランドの国境地帯で生まれた犬で、古くからからヒグマ猟に使われていたんだって。独立心が強い大型犬で吠え声が大きく(そりゃそうだ。クマを追うんだから声はデカイ)、めちゃくちゃ運動量が多いから、家庭でペットとして飼うには不向きかもしれないね。

そういえば、ボクの家にも “クマ” が出る(らしい)。直接見たことはないんだけど、隣の家のママさんがボクの家の庭(すごく小さいけど、一応、庭)に夜、2頭の “クマ” がいるのを見たと教えてくれたんだ。動画を観せてもらったんだけど、確かに “クマ” だった。画面には丸々と太った2頭の「アライグマ」が映っていた。以来、ボクは彼らのことを「アライさん」と呼んで、毎夜警戒を怠らない。ボクはきょうも「ベアキャット」としてがんばっている。ヨーソロー!