【夢旅 041】 ぽんずの夏休み日記④

さては、おぬし、忍びでござるな
◉8月22日(火)
この日は久しぶりの雨。アクアラインの両側には東京湾がドヨ~ンと陰気に広がっている。ボクは今、ホーリーと一緒に高速バスに乗っている。きょうの夕方、NHK総合テレビの番組でホーリーが毎月写真を撮りに行っているドライブインが紹介されるから、便乗して映っちゃおうって
魂胆らしい。なんとミーハーなことか。そのためだけに東京駅から2時間以上バスに揺られ、しかも外は土砂降りの雨で、わんこの写真を撮るどころじゃないんだからゴクローなことだよね。って、「お前もな!」と心の中でつぶやいたアナタ。ボクはテレビなんかどうでもいいの。このド
ライブインには、ボクが恋焦がれているおねえさんがいるのだ。ボクが一目惚れした「屋久島犬(やくしまいぬ)」のベリー姉さん。ボクは今、ベリー姉さんに会うためだけにバスに乗っている。

屋久島犬は、南西諸島の島内、特に屋久島内で交配を続けてきた日本犬の一種なんだ。日本犬の祖先である「縄文犬」の一種とも言われていて、勇敢な性格から、獣猟のために内地に持ち込まれたらしいよ。

ベリー姉さんは、イノシシにも臆せずに立ち向かっていく勇猛果敢な狩女(かりじょ)なんだ。愛想は良くないんだけど、ツンツンしたところが逆にたまらないんだよねー。短めでツヤツヤした毛、しっかり固くてでっかい肉球、凛々しく立った耳、見つめられたら失神しちゃいそうな茶色の目、ボクは男(正確にはキョセイオス)だけど、思わす「抱いて~」ってスリスリしたくなるくらいカッコイイ女子なんだ。(実際にスリスリしたらひっぱたかれそうだけど…)
ところが、ベリー姉さん、なんときょうは奈良にご出張でご不在って、それじゃあ、ここに来た意味ないじゃん。着いてすぐで悪いんだけど、ホーリー、もう帰ろうよ。

追記
ホーリーは結局、2回、合計4秒間テレビに映ったらしい。丸一日かけて4秒とは、まったくゴクローなこった。

◉8月23日(水)
きょうもジメジメと暑い。お盆が過ぎたら少しは秋らしくなるのかな、な~んて期待したボクが甘かった。あまりの暑さに一日中秘密基地でぐでんぐでん。

◉8月24日(木)
この前、ワミさんに「ぽんずさんてさぁ、なんも考えてなくてさぁ、一年中夏休みみたいでさぁ、ダラダラできてさぁ、いいよね~。」なんて言われてムカついたけど、改めて考えてみると、確かにその通りなのかもしれないなぁ。

きょうもジメジメと暑い。(中略)あまりの暑さに一日中秘密基地でぐでんぐでん。
きのうとほとんど同じ一日でした。

◉8月25日(金)
きょうもジメジメ(中略)ぐでんぐでん。
と書こうとしたんだけど、なななんと、きのうまでとは少し違う風が吹いている。空も心なしか高いような気がする。ソフトクリームみたいな入道雲がモクモク出てるけど、その上に刷毛で描いたような薄い雲があるじゃん。道端にはキバナコスモスのオレンジ色の花が咲いている。よく
見れば赤とんぼだって飛んでるじゃない。

つい数日前まで「秋の気配、どこ行った?」なんて言ってたけど、いつの間にかすぐ近くにまで忍び寄って来てたんだね。ぜんぜん気づかなかった。
暑くもなければ寒くもなく、夏の華やかさも冬の凛々しさもない、なんとなく中途半端で地味な感じなんだけど、でもでも、美味しい秋。おぬしはずっと気配を消し、ある時いきなり耳元でフフフと笑う忍びだったのでござるな。おぬしの隠伿(いんとん)の術、感服つかまつった。

◉8月26日(土)
さて困ったことになった。
何が困ったかというと、ボクは猫だけど、この原稿を書くにあたって、一日の出来事とか思ったこととか、書きたいことが浮かんだ時に紙にメモをすることがあるんだよね。ところが今、自分で描いたメモを見て非常に困っている。

梨→秋→甘い→生クリーム→でちゅよ→ママ(たまにおじさん)→猫は甘さわかんない→前に書いた→すぐ忘れる→いいのだ→飲み過ぎはゲリ

いったい何を書こうとしたんだ、ボクは? 皆目見当がつかなくて困っている。「でちゅよ」ってなんだ? なんでここでいきなり赤ちゃん言葉なんだ?
「すぐ忘れる→いいのだ」って、ぜんぜん良くないだろ。メモってものは忘れないように書き残しておくものじゃないのか。しかも、いいのだ、なんてそれを簡単に許しちゃうのは言語道断だろ。メモ書く意味ないだろ。

というわけで、自分で書いた連想ゲームのお題のようなメモを前にして朝からとても混乱しています。ボクが何を書こうとしたのか、誰か教えてくれないだろうか。

◉8月27日(日)
軽井沢のモトさんミクさんの家に行く。さすが標高1,000メートルの高さだけあって東京とは空気が違う。頭がシャキっとするね。夜、ガレージバーベキュー。肉をたらふく食べる。完全肉食の猫にとっては至福のひととき。

◉8月28日(月)
夏休み最終日。とは言っても、一年中夏休みのようなボクだから、夏休みのきょうも夏休み明けの明日もほぼ同じだと思う。
それにしても、お天気の人が今年の夏は「異常」だって言ってるように、この夏はいつも以上に暑かったような気がする。でも、ボクの執務室にはいまだにエアコンが、ない。どういうことだ。この件についてはいずれ白黒つけなければいけないと思っている。って、あっ、思い出しちゃったよ。この夏の自由研究。白黒動物について研究するんだった…。すぐやらないと…。
というわけで、結局、ボクの夏休みは、基本ダラダラ過ごして、最後の日にあわてて宿題を片付
ける小学生と同じなのでした。