【夢旅 040】ぽんずの夏休み日記③

 


正調にっぽんの夏

◉8月15日(火)
秋の気配が立ち始めるはずの立秋から1週間、やっぱり「おーい、どこ行ったー?」な秋の気配で、相変わらずムシムシと暑い。
そして、まだ夢の中の朝っぱら(あくまでもぽんず時間です)、家の近くの防災無線が鳴り響いて、親切にもきょうという日が「終戦記念日」だって教えてくれた。そうか、きょうは太平洋戦争が終わった、忘れちゃいけない日だったんだね。
ところで、防災無線って、いきなりものすっごく大きな音で鳴るよね。「ピンポンパンポーン」なんて軽快な音じゃなく、「ビンボンバンボ〜ン」って感じのガジガジにひび割れた音が、なんの予兆もなくそこらじゅうで鳴り響く。わりとビビリなボクは、いつも一瞬息が止まっちゃうんだ。もちろん、尻尾がぶわっと膨らんで平常時の3倍くらいの太さになっちゃう。でもまぁ、そのくらいじゃないとみんなに気づいてもらえないだろうから仕方ないか…。

◉8月16日(水)
相変わらず秋の気配は行方不明。とにかく暑い。こんな日はホーリーがそっと保冷剤を置いてくれる”秘密”基地でダラダラ昼寝をするに限る。

◉8月17日(木)
相変わらず秋の気配は行方不明。(中略)昼寝をするに限る。
ってさぁ、きのうとおんなじじゃん。ほかに書くことないわけ?
これじゃ、夏休みの最終日に慌てて書いた小学生の絵日記みたいじゃない。と一人ツッコミを入れてみるんだけど、ホントにきのうとおんなじような一日だったんだから仕方ないのだー。

◉8月18日(金)
ついにきょう、秋の気配の尻尾を捕まえた。
アブラゼミのジージーとミンミンゼミのミーンミーンの中にツクツクボウシのオーシンツクツクが混じり出したことに気づきました〜。って、ん? セミはどうしたって秋じゃなくて夏だろ。だよ。だから、ツクツクボウシは秋の気配じゃなくて「夏の終わり」の気配ってことになる。やっぱ、秋の気配、どこ行った?
あー、暑いのだー。

◉8月19日(土)
千葉の君津ってところに行ったんだ。君津って言うと、東京湾側の内房をイメージするかもしれないけど、ボクが行ったのは「笹川湖」という山の中の湖のほとり。どちらかというと外房の鴨川に近い場所なんだ。で、ここもガッツリ暑い。ただ、海からの風が入ってくるみたいで、ときどき気持ちのいい風が吹く。それでね、ここで見つけちゃったんだ。田んぼに日本家屋、こんもりとした森と青い空と雲。そう、由緒正しき「正調にっぽんの夏」がここにあったんだ。当然、家の中には蚊取り線香の煙がフワフワ漂っていて、懐かしい昭和の香りがするんだろうなぁ(ボクは平成生まれだけど)。生粋の昭和人であるホーリーに聞いたところ、昔の家では「蚊帳(かや)」っていう細かい網でできた四角いテントみたいなものがあって、夜になると部屋の中に蚊帳を吊ってその中に布団を敷いて、家族もそうじゃない人もみんな一緒に寝たんだって。これってさ、めっちゃ秘密基地感なくない?  聞いただけでワクワクしてきちゃう。「蚊帳の外」っていう言葉があるけど、昔、蚊帳の中に入れてもらえず仲間はずれにされた人は、一晩中蚊の襲撃を一手に引き受けてボッコボコにされてめちゃくちゃカユイ思いをしたんだろうね。

 

◉8月20日(日)
いまボクは、かなり心が揺れている。グラグラの大揺れ。
生まれて初めて炭火で焼いた猪の肉を食べたというのが心の揺れの原因なんだ。禁断の扉をうっかり開けてしまったみたい。というのも、ボクはずっと鹿の肉が好きで、鹿ジャーキーがあればいつでもご機嫌だったんだ。でも、猪の炭火焼きは鹿ジャーキーと同じか、いやいやいや、もしかしたらそれ以上かもしれない美味しさだったんだよね。もう衝撃のうまさ。
ほどよい弾力を持った肉の歯応え、強火の遠火でじっくり焼いて遠赤外線効果たっぷりの外は香ばしく、中はジューシーなお肉の味、適度な脂がのったグルタミン酸とイノシン酸の旨み。そこにタレのしょっぱさとほんのりとした甘みの援軍が加わっちゃったもんだから、もう、アナタ、悶絶級の美味しさざーますわよ。(なぜか謎のザーマスママが突然憑依)
そして、煙と肉の焼ける香りの中にも「正調にっぽんの夏」を見たのです。(猫にはショックが強すぎて、なんか、語尾がめちゃくちゃになってきた)

◉8月21日(月)
東京はただただ、ただ暑かった…。
相変わらず秋の気配は行方不明。(中略)昼寝をするに限る。
正調にっぽんの夏も行方不明。おーい、どこ行った、ご両人?
おやつに鹿ジャーキー、晩ごはんには猪肉の炭火焼き、そして、畳の部屋に蚊帳を吊って布団を並べてみんなで寝てみたい。ボクは昭和を知らないはずなんだけど、魂の奥のほうで昭和という時代のイメージが渦巻いてるというかとぐろ巻いてるというか、なんかグルグル巻き巻きしてるんだ。

そうだ!
夢旅ができるんだから、もしかしたら時代を超えた旅もできるかもしれない。よし、今度昭和への旅にチャレンジしてみようっと。