【夢旅 054】晩秋を駆ける風の犬たち ①

 

 

 

 

走って捜してピタリと止まる

久しぶりだよー! また会えたよー! ホンマものの「風の犬たち」だよー!
ということで、今回旅したのは栃木県の小山。思川(おもいがわ)という、なんともロマンチックな名前の川が流れるさらにロマンチックな乙女(おとめ)なんていう地名の場所。どんな乙女に思いを寄せられるのかと内心ドキドキしながら古い橋を渡って河原に降りたのだけれど、まぁ、そこは河原だよね、ただの。だだっ広い河原にはピッタリ寄り添ってほんわかした恋が始まりそうなぬくぬくの猫ベッドなんてものはなく、茶色ときどき緑、寒風に揺れるススキの穂と小糠雨(こぬかあめ/細かな雨のことだよ)。

って、雨だよ雨。天気予報ではずっと曇りで雨は降らないって話だったのに。ついさっきまで雲の切れ間から陽が射してたのに。やっぱりホーリーを連れてくるんじゃなかった。最近、油断してたけど、ヤツは雨男だったんだよなぁ。しかも、ただの雨男じゃない。「超絶雨男」だったんだよなぁ。猫のボクにとって雨は点滴、じゃなくて天敵。超絶雨男なんて家に置き去りにしてくればよかったんだよなぁ。

だけど、今はそんなこと言っていられない。なんてったって、きょうは久しぶりに会いに来たんだから、彼ら「風の犬たち」に。きょう会う犬たちはみな「鳥猟犬」だ。鳥をターゲットにした猟犬で、中でも「ガンドッグ」や「シューティングドッグ」などと呼ばれる、野山を駆け回って鳥を捜すことが仕事の犬たち。トップスピードで走っていても鳥の匂いをキャッチした途端にピタッと止まる(ポイントという)。そしてそのまま鉄砲を持った猟師である主人を待つ。じっと待つ。走るのが仕事なら待つのも仕事だ。

主人が動かずにいる犬のそばに行って合図をすると、犬は再び動き出す。そして、藪などに潜む鳥を飛び立たせる。仕上げは主人が鉄砲でバンッ。犬と人間が連携して鳥を狩るわけだけど、きょうここで行われるのは猟じゃなくて競技会。だから、実際に鳥を追い出すまではやるけど、「バンッ!」は無し。でも、一連の流れは実猟とほぼ同じだから、犬たちの動きや表情は野性味たっぷりなんだよね。

鳥猟犬と人間(ハンドラー)がチームになって鳥を捜すこの競技は「フィールド・トライアル(FT)」というドッグスポーツなんだ。FTをやる犬は、イングリッシュ・ポインターやイングリッシュ・セター、ジャーマン・ポインター、ブリタニー・スパニエル、ワイマラナーといった犬種がメイン。
2チームが同時にスタートして広いフィールドに潜む鳥を捜すのがFTの基本。競技会ではウズラやボブホワイト(ウズラの仲間)といった競技会用の鳥をフィールドに放すことが多いのだけれど、中には野生のキジ(自然鳥)を捜させる競技会もある。

ここでは説明を省くけれど、FTにはいろんなルールがあって、数多く鳥を捜し出せばいいってわけでもないんだ。捜し方も評価の対象になるし、犬がちゃんとマナーを守れるかも大事なポイント。めちゃくちゃ自由奔放に走ってるように見える犬たちも、実は、かなり緊密にハンドラーと連携してるんだよね。まるで犬とハンドラーが見えない糸で結ばれているみたいに、犬がハンドラーの意思を読んだり、逆にハンドラーが犬の気持ちを汲み取ったりするんだから不思議。もちろん、ときには「ウチの犬どこ行った?」みたいなことになって、鳥捜しが犬捜しに変わっちゃたりすることもあるんだ。

FTっていうと、以前はおじさんばっかりのむさ苦しい競技だったんだけど、最近は女性ハンドラーが増えてきて華やかになってきたのが猫のボクにはうれしい変化なんだよね。だって、おじさんのダミ声が苦手な猫ってけっこう多いからね。

それはそうと、野山を走る犬たちって本当にイキイキしててうれしそうで、目がキラッキラしてるんだよね。普段とは全然違う表情なんだ。FTの本当の魅力って、そんな犬たちの「生きてる~!」感満載の表情が見られることなんじゃないかってボクは思う。見てるこっちがうれしくなっちゃうくらい楽しそうなんだもん。
雨が降ってたって関係ない、薮に入って枝や葉でどこかを切って血が出てたってへっちゃら。あの集中力はすごいけど、「もしかしておバカさん?」って疑いたくなる時もある。まぁ実際、走って走って走って走って、楽しいーーーーーってテンション上がっちゃって、そんでもって、ふと「アレ、ここどこ? オレ何してんだっけ?」みたいに困っちゃってる笑える犬もいたりするだけどね。

ところで、猟犬って聞くと、なんだか気が荒い乱暴者みたいな印象かもしれないけど(ボクは初めのうち怖かった)、FTの犬たちは全然そんなことなくて、どの犬もものすごく人懐こい。猫のボクが言うのもなんだけど、すっごく気のいい連中なんだよね。無防備でいるとヨダレでぐちゃぐちゃにされたり、ウレションされたりするから油断ならないんだけど、それでもボクは彼らと触れ合いたい。
野山を風のように駆け、ときには「狩る者」としての凄みを見せたりする犬たち。体中から「楽しいーーーー!」を撒き散らす犬たち。競技が終わったら途端に甘える犬たち。そんな「風の犬たち」がボクは大好きだ。