【夢旅 036】春秋年2回構想

 

 

 

涼を求めて高原に避暑へ。と思いきや

毎日毎日暑い、というか暑すぎる。というか、いい加減にしてほしい。ずっと35℃を超える「猛暑日」が続き、天気予報の太陽マークはオレンジじゃなくて真っ赤。いくらなんでも度を越している。だって、ボクんちの給湯器の設定温度は35℃。つまり、35℃というのは「お湯」の温度ってこと。空気の温度じゃないよね。もはや口を開けば「あ〜暑い」しか出てこないし、例の秘密基地から出ることもままならない。もうこの際宅猫でもいいか、と諦めかけたところに朗報が!

「軽井沢のマルシェに行くけど、ぽんずさんも行く?」とホーリー。
「あたりまえじゃん!」と、秒で賛意。ヒゲの先ほども断る理由なんかない。

軽井沢、正確に言うと、中軽井沢の駅前のマルシェ。
中軽井沢の駅は標高約940メートル。ボクんちの標高が約80メートルだから、その差は860メートル。標高が100メートり上がるごとに0.6℃気温が下がるから、マルシェの会場はここよりも5℃以上気温が低いことになる。つまり、30℃以下の涼しいところにいられるわけだ。30℃で「涼しい」と感じてしまうのもどうかとは思うけどね。

でもまあ、とにかくやってきました、ニッポンの純正避暑地軽井沢へ。マルシェの前日夕方に軽井沢に着いたんだけど、駅についてビックリしちゃった。だってね、エアコンが効いた新幹線の中の気温と駅のホームの気温がほとんど同じなんだ。天然のエアコン。さすが高原の避暑地。
とりあえず、軽井沢の定宿であるモトさんミクさんの家へ行くと、なぜか部屋の真ん中でカエルが蚊取り線香を釣っていた。窓のカーテンには金魚が泳ぎ、網戸の向こうでは「カナカナカナ」ってヒグラシが鳴いてる。蚊取り線香のグルグルを見つめていると目が回りそうになるけど、この状況は「正しいニッポンの夏」って感じで、純正避暑地の軽井沢によく似合ってるなぁって思った。こういう夏なら秘密基地なんかにこもらないで、窓辺でヘソ天(あられもなくお腹を見せて寝っ転がること)して昼寝できるんだけどねー。でも、帰ったら度を越した夏なんだよなぁ…。

で、実は、ボクには胸に秘めた壮大な構想があるのだ。
その名も「春秋年2回構想」。ボクたち猫にとって快適とは言えない夏と冬を撤廃して春と秋が年2回ずつ来るというもの。秘密基地に引きこもるクソ暑い夏も、こたつに引きこもるクソ寒い冬もなく、少しずつ日がのび、少しずつ緑が濃くなり、意味もなくアオ〜ンって叫びたくなる春と、焼きイモ、サンマの塩焼き、鹿ジャーキー(?)がめっちゃ美味しい秋が年2回もあるんだ。シベリアン・ハスキーやサモエドみたいに寒い国からやってきた犬たち、シンガプーラやエジプシャン・マウみたいに暑い国からやってきた猫たちには反対意見もあるだろうけど、寒い国からやってきた犬たちにとっては、ハンパなく辛い夏がなく、暑い国からやってきた猫たちにとっては猫パンチでぶっ飛ばしてやりたいくらい憎い冬ってものがなくなるので、もしかしたら渋々ながらも賛同してくれるかもしれない。家猫、外猫、野良猫たちは、もちろんもろ手をあげて歓迎してくれるはずだ。
ただ、2つ問題があって、ひとつは、どの月を春と秋に設定するかということ。4月と5月が春、10月と11月が秋というのは鉄板で誰も文句は言わないだろう。問題は3月と6月と9月の扱いだ。3月は半ば以降は明らかに春だけれど、前半にはなんとなく冬の気配が残っている。6月の初めは春っぽいけど、後半になるとジメジメとした夏の気配だし、9月にいたっては最初から最後まで夏の気配に支配されてるような年があるんだよぁ。春と秋の期間設定についてはまだまだ議論の余地がありそうだ。

そして、もうひとつは「花粉問題」。
春の花粉は言わずもがなのこと。秋にも花粉が飛び散るんだよねー。でも、この花粉問題が解決したら、一挙に賛同の輪が広がるかもしれない。いや、すんごいムーブメントに発展する可能性だってある。ここはひとつ、グーグル教授(あまりの博識に敬意を表して教授と呼ぶことにした)も巻き込んで真剣に考える必要がありそうだ。

なんて、壮大な妄想を抱いているうちにあっけなく寝落ちして、気づいたらマルシェ当日の朝。天気は……、これ以上ないってくらいの晴れ、っていうか、朝からカンカン照り。太陽の光が刺さる感じ。と、ここであることに気づいた。標高が上がるってことはそれだけ太陽に近づくんだってことに。するってーとだよ、紫外線が強くなるってわけだ。グーグル教授に尋ねたら、標高が1,000メートル上がると紫外線が10〜12%増しになるとのこと。紫外線の大盛り。高原の夏は涼しいけれど、太陽の光には油断できないってことかぁ。

それでもマルシェにやってくる犬たちは皆元気だ。芝生の上を激走してるうちに「あれ、ココどこだっけ? ワタシどこ走ってる?」と、困った顔をするワイマラナーのお嬢さんや、シャキッとした姿勢で颯爽と歩くミニチュア・ダックスフンドのおばあちゃん、楽しそうに蝶々を追いかけるカニーンヘン・ダックスフンドのおチビちゃん。老若男女、どの犬もイキイキとしてる。これも純正避暑地軽井沢の実力なのかなぁ。やっぱり、30℃以下で「涼しい」風が吹く高原は違うもんだなぁ。

ところが、猫のボクは大丈夫じゃなかった。
マルシェが終わる頃には、大好物の鹿ジャーキーを出されても食べたいと思わず、水を飲んでも吐きそうになる始末。薄暗い秘密基地から出て、涼しい高原で快適に過ごすはずが、モトさんミクさんの家でグッタリとした夜を過ごすことになるとは…。トホホ。
恐るべし、夏の太陽。これはやはり、春秋年2回構想の実現に向けて早々に動かなければなるまい。と、意を強くした夏の夜であった。