【夢旅 033】豆苗どろぼう

 

 

 

おしゃべり鳥は見た

あ〜暑い、暑すぎる、ジメジメムシムシ、原稿書く気になれないヨォ。だって、あまりにも暑すぎるんだもん…。
って、先週と同じ書き出しになっちゃったけど、やっぱり今週も暑いんだから仕方がない。ここは、相変わらず熱帯のジャングルかと思うほど(行ったことないけど)高温多湿なのだった。
そして、エアコンは、まだ、ない。

ということで、今週も旅に出ることなく、暑さに負けて寝落ちするボクなんだけれど、実は、ボクは最近ヒジョーに怒っていた。というのも、不本意なことに、どろぼうの濡れ衣を着せられていたからなんだ。
原因は「豆苗」。あの、スーパーとか八百屋さんで見かけるヒョロッと細長い草のような野菜で、中華料理なんかでよく使われるやつ。豆苗って、根ごと売ってるから、一回使ったあと、食品トレーのような容器に水と一緒に入れて窓辺に置いておくだけでニョキニョキ伸びてくるお得な野菜。ひとつで二度美味しい。その豆苗をボクが盗んだって、ホーリーが言い張るんだよ。気高いボクがどろぼうだなんて失礼しちゃうよね。

でも、きのう、ひょんなことからボクのどろぼう疑惑がキレイさっぱり晴れたんだ。おしゃべりな鳥が窓辺の豆苗を盗んだ犯人を見ていて、そのことを近所中に触れ回ってたんだ。

そのおしゃべりな鳥は「ガビチョウ」。
知ってる?
漢字で書くと「画眉鳥」。スズメ目ヒタキ科の鳥で、大きさは24cmくらい。スズメよりは大きいけど鳩よりは小さい。本来は中国の南部から東南アジアにいる鳥なんだけど、ペットとして飼われていたガビチョウがカゴ抜け(鳥カゴから逃げ出すこと)して定着したらしい。今では、九州から南東北まで広く分布していて、「特定外来生物」にも指定されてるんだ。

そのガビチョウ、マジでよくしゃべる。でっかい声で歌うようにしゃべる。きのう、一羽のガビチョウがボクんちの庭先にやってきて近所じゅうに聞こえるような大声でしゃべったんだ。

「アノネワタシ知ッテルヨ見チャッタヨ。窓辺ノ豆苗食ベタ犯人ヲ見タノヨ。家ノ中ノゾイタンジャナイノヨ偶然ヨ。犯人ハ猫ダッタヨ。白黒ダッタヨ。ワタシウソ言ッテナイヨ。コレホントノコト。豆苗ドロボウハ白黒ノ猫ナノヨー。アレハタブンオンナネ!」

そう、豆苗どろぼうは猫だったんだ。白黒の猫。で、おそらく女子。
この近所で白黒で猫で女子といったら、あのお方しかいない。

ねぎま先輩。

ボクと一緒に暮らしている猫で、同じ場所で保護された兄弟猫(たぶん)。天真爛漫自由奔放な女子で、体はボクよりもかなり小さいんだけど、風格は完全に「先輩」。ボクはなぜか彼女にはアタマが上がらない。
ねぎま先輩は束縛を何よりも嫌う。そして、意のままにならないときは「うわぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!」って叫ぶ。渾身のチカラを込めて叫ぶ。体は小さいのに声はボクより断然デカイ。その「ねぎま先輩」が豆苗どろぼうの真犯人で、ガビチョウが目撃者だったってワケ。
ガビチョウが言うには、ねぎま先輩は、スルリと豆苗の置いてある窓辺に登ると、周りを気にすることもなく豆苗の柔らかい新芽を選んで食べてたらしいんだ。
悪びれた様子もなく、「ワタシ、豆苗食べてますけど、それが何か?」って感じだったんだって。
それで、食べるのに満足したら、新芽をちぎって遊んでたんだって。容器の周りは食いちぎった新芽だらけで、それはもうひどい散らかりようだったって、ガビチョウが言いふらしてたよ。

ホーリーは、そろそろ食べようと思ってた豆苗を盗まれた被害者として、ボクは豆苗どろぼうの罪を着せられた冤罪の被害者として、ねぎま先輩に真実を問うべく詰め寄ったのだけれど、彼女の反応はガビチョウの言う通りだった。

「豆苗?  ええ、ワタシ確かにいただいたけど、それが何か?」と、罪の意識ゼロ。こうなると、猫の耳に念仏というか、暖簾に腕押しというか…何を言っても無駄なので、ボクは黙り、ホーリーは豆苗をねぎま先輩と分け合うことにした。
恐るべし、ねぎま先輩。

ところで、なぜ「完全肉食」であるはずの猫が草なんか食べるんだろう?
ボクは草を食べたりしないんだけど、ねぎま先輩のように草を食べる猫にはそれなりの言い分があるみたいなんだよね。

猫は肉食動物だから、植物を食べても消化されないまま排泄されるんだ。なのになんで草なんか食べるのか。それは、「草で胃を刺激して、毛づくろいのときに飲み込んだ胃の中の毛玉を吐き出すため」っていう説が有力みたいだね。でも、猫には有毒な植物もいっぱいあるから、ねぎま先輩は草を食べるときはよく注意したほうがいいかもしれない。調べてみると(もちろんグーグル先生)、意外と身近なところにヤバイ植物があるんだ。

例えば、野菜だと主にネギやナスの仲間で、「ネギ、タマネギ、ニラ、ニンニク」など。果物では「アンズ、スモモ、モモ、サクランボ」など。木や花だと、「ユリ、チューリップ、スズラン、ヒヤシンスなどユリ科の植物」とか、「ツツジ、サツキ、シャクナゲなどツツジ科の植物」もヤバイらしい。そのほか、アボカド、ウメ、アーモンド、ワラビ、アサガオ、シクラメン、パンジー、アイビー、ポトス、ドラセナ(幸福の木)なんかも猫にとっては有害な植物なんだって。

ねぎま先輩、豆苗に毒はないけど、「食べてますけど、それが何か?」なんて言っていろんな草食べてると当たっちゃうかもしれないよ。食べるのは豆苗くらいにしといたほうがよさそうだね。あと、食べ物で遊ぶのはやめようね。って、後輩のボクが言うのもなんだけど…。