チャチャ日記❾
一昨年、野田知佑氏というカヌーイストが亡くなった。
(日本の川を旅する)という著作で川を下りながら旅するカヌーツーリングという遊びを広めたアウトドアマンである。
川旅をする時、彼はいつも愛犬ガクをカナディアンカヌーの前席に乗せていた。
日本の川でもアラスカの川でも愛犬ガクは野田さんの最高のパートナーだった。
日清食品のテレビCMでカヌーにガクを乗せ、チキンラーメンを食べているシーンを覚えている人もいるだろう。
愛犬ガクとスケールの大きな旅をする姿に多くのアウトドアマンが憧れた。
僕もそのうちの1人である。
かつて野田さんと何度も一緒に川を下った経験のある僕は、そろそろチャチャをカヌー犬に育てなくてはいけないのじゃないかと考えた。
目的地はツーリングカヌーのメッカ、茨城県の那珂川。使用するカヌーはフジタのフォールディングカヤック。
木で出来たフレームに強化ビニールのシートを被せてつくる折りたたみ式のカヌーである。
天気は快晴。残暑が残り蒸し暑いくらいの9月だった。
犬用の救命胴衣を身に着けたチャチャの姿がレスキュー隊のようでカッコいい。海猿??いや犬だから違うな。
水遊びが好きなチャチャはいきなり川に飛び込んでずぶ濡れになる。
どうやらカヌー犬の素質はありそうだ。
そんなチャチャを掴み上げてフジタカヌーの前席に放り込んだ。何が始まるのかわからず戸惑うチャチャ。
カヌーを漕ぎ出すとしばらくの間、岸に帰りたい仕草を見せたが、徐々に慣れてきた。
穏やかな流れに乗っている時はコックピットに静かに座っているが、瀬に突入するとその途端に興奮し始める。
キラキラと光る水面、次々とぶつかってくる波頭・・・得体のしれない生き物に取り囲れたと思っているのか、興味津々で水流の動きを追い掛けた。
そして、再び穏やかな流れになると「なんだぁ、つまらないなぁ。」という顔をして居眠りする余裕まで出てくる。
カヌー下りの魅力の1つは川面を渡る風だと思う。
頬を撫でる風がとにかく爽やかで心地よいのだ。そして、自然の絶景がロールスクリーンのように音もなく視界を流れていくところがいい。カヌー下りは実に贅沢な遊びである。
やがて川岸の林の向こうに(鮎)の大きな看板が見えてきた。
「ちょっと寄って行くか・・・」とカヌーを接岸させて、鮎の塩焼き小屋に立ち寄った。
丸々と太った鮎が水槽で泳いでいた。
すぐに竹串に刺して焼いてもらう。
ついでにビールも飲んじゃったりして。
恨めしそうに見上げるチャチャには鹿肉ジャーキーを与えて、2人で川を見ながら佇んだ。
ライフジャケットをつけて正座しているチャチャの横顔が凛々しく見えた。
野田さんとガクの世界に近づけただろうか?いや・・・見ていたのは鹿肉を入れた防水袋なのだと気が付いた。