麻布大学准教授 南正人さんに、鹿ツアーの感想を伺いました!

NPO法人あーすわーむ、そして森から海へ評議員の南先生に、鹿ツアーの感想を伺いました!

〇小諸市野生鳥獣商品化施設について

小諸市によって作られた駆除や狩猟によって捕獲された動物(現在はおもにシカ)の加工施設で、小諸市だけでなく、近隣の軽井沢などからも捕獲されたシカが持ち込まれて、おもにペットフードやその材料を生産している。当初に比べて処理数も増えて、この地域の野生鳥獣のマネジメントの重要な拠点になっている。当日は、小諸市長をはじめ小諸市の担当課の方、佐久市長や職員、小諸市と取引のある鹿革加工の代表的メーカーの社長なども参加された。

野生鳥獣のマネジメントに関して小諸市がこの地域で果たしている役割は大きい。この商品化施設の設立や運営もその一つであるが、野生鳥獣マネジメントの専門官を雇用し全体の企画立案・実施のポストに付けたことが非常に大きい。さらに、この専門官を中心に小諸市が責任を持った形で野生鳥獣の捕獲を行う実施隊を編成し、猟友会のボランタリーに依存しない仕組みを作ったたことも全国のモデルになり得る。衛生的に高いレベルで維持された施設運営も評価されるところである。

 

〇望月高原牧場について

近年シカが増えている牧場で、日没後には非常に多くのシカが牧場に出没していると言われている。今回は日没前の明るい時間帯であったので、シカは数頭しか見られなかったが、草地と周辺の林にはシカの糞が多く落ちていた。周辺の林の状態や雨に流される土壌なども観察することができた。ササの高さもかなり低くなっており、シカの個体数が多いことがうかがい知れた。また、崩落が起こった現場を、強い雨の中で見学したが、長居をしていると崩落が起こるのではとい懸念さえ抱かせた。防災の面からも、シカの個体数の抑制が必要であると思われた。

 

〇神津牧場について

長野県と群馬県にまたがる山間地牧場で、現在もジャージー牛の放牧牧畜が行われている。農水省による個体数調査や麻布大学によるシカや他の野生動物の研究が継続されている。私たちあーすわーむも10年以上にわたって、それらの調査研究の手伝いを行っている。この日のナイト・ツアーでは、非常に多くのシカが草地にいた訳ではないが、それでも数十頭を目撃することができた。放牧している牛よりもはるかに多いシカが草地で牧草を食べていることになる。この牧場周辺の森林もかなりダメージを受けており、牧場があることがシカの増加につながり、周辺の森林にもダメージを与えることがよく分かる場所である。

〇カヤの平の森林について

長野県北部にあるシカの生息が比較的少ない森林で、私にとっては初めての訪問である。車でかなり標高の高いところまであがり、さらに非常に状態の良い森のすぐ近くまで車で入れた。脚が弱ってきた私にも利用しやすい森であるが、適切な利用のためには車が遠ざけた方が良いのかもしれない。シラカバやダケカンバの信州の高原らしい景色や、中間層や下層の植生が残っているブナの森の景色は素晴らしかった。私も森が好きで、若い頃に、京都府の芦生原生林や京都北山、北八ヶ岳の森、北海道の阿寒湖周辺などを彷徨したが、今回歩いたカヤの平の森は「昔はこういう森を歩いていたなぁ」という気持ちにさせてくれた。近年の調査で歩く森は、すでにシカの採食の影響で中間層から下層植生が非常に少ないか、あるいは、ほとんどない森林ばかりなので、このような森を見ることはほとんどない。ちょっと驚いたのと同時に郷愁の想いがこみ上げてきてしまった。シカも生態系の一員なので絶滅させるのは間違いであるが、「健全な」森林生態系の残る場所として残したい森である。伊豆のヒメシャラの原生林を見せてもらったが、シカが増える前は本当に素晴らしい深い森だったそうだが、現在では中間層や下層植生がほとんどなく奇異な森になっていた。この森もそうならないように対策を打てたらと思う。