森のおはなし – タネの秘密

一本の樹木が集まって、大きな森が出来上がります。どんな大樹も一粒のタネから始まります。森のおはなし②に引き続き、今回もタネのおはなしをしますね。

今日ご紹介するタネは、「ドングリ」です。その中の比較的寒い場所に暮らす秋になると紅葉し冬に落葉する「コナラ」「ミズナラ」という種類のドングリのお話です。

 

 

クルリンとしてツヤツヤしているドングリは、ネズミやリスは勿論、カケスやアカゲラ、大きな動物ではイノシシやクマなど森で暮らす生き物たちの大切な食べ物です。ドングリの茶色の硬い皮を剥ぐと中から乳白色の種子がでてきます。この種子は、ビタミン・ミネラル・炭水化物・脂質などを含んだ総合栄養食!人気者なわけです。

でもです、考えてみると不思議です。これだけのタネを作るのに母樹は大変な労力を使っているのに、動物に食べられてしまっていいのか!なぜ、そんな無駄と思えるようなことをするのでしょう?

母樹は広い森にドングリの種まきをしなければなりません。そこで身につけてきた作戦が「動物に運んでもらう!」です。クマやイノシシはあまり噛まないので糞をみるとそのままのドングリが入っている時があります。特に担い手として有名な、リスやネズミ、カケスは貯食と言ってどんぐりを貯めておく習性があります。それぞれが貯めておいた事を忘れてしまう、やがて春がくると忘れられたドングリが芽を出します。母樹はドングリを運んでくれるお礼にお裾分けとしてお渡ししている。という感じでしょうか。

それともう一つドングリに含まれている成分にも秘密があります。それは、タンニンという成分です。タンニンは苦味成分が多く、人が食べると渋さを感じます。動物たちも食べすぎると身体に良くないと言われています。特にドングリの運び手として有名なリスやネズミはタンニンが多く含まれる先端部分を食べ残します。実は、この先端部分がドングリの生命線なのです。

秋の終わりから冬にかけて、森の中に落ちているドングリを見たことがありますか?ドングリの先端からチョロリと白い尻尾のようなものが出ています。これは、根です。ドングリは初めに根を出すのです。その根となる大切な部分にタンニンを多く含ませ、リスやネズミが食べている途中で「おっ!渋い」とポイっとしてくれると残った先端が根を出せる!というわけです。かじられてしまったドングリの根や発芽は小さかったり、いびつだったりしますが、それでも可能性はゼロではありません。ポイとされた場所の条件が良ければ、チャンスはやってきます。やがて、森を作る一員になるかもしれません。生きる力をギュッと詰め込んだ形がドングリのクルリン、ツヤツヤになりました。