森のおはなし ー コートを脱いで

森のおはなし コートを脱いで 森から海へ ペットフード 鹿肉春の日差しが届く頃になると、枝の先端の冬芽が動き出します。

冬の間、枝先の芽は寒さから守られるようにコートを着て過ごします。コートに守られた芽のことを「冬芽(とうが)」といい、冬芽を守るコートは、樹木の種類によって異なります。そのコートのことを「芽鱗(がりん)」と呼びます。

ドングリの仲間は茶色い鱗(うろこ)のようなコート、クルミは、細かな毛をまとって冬を越します。コブシは薄いブランのコートの上に軟らかな毛をまといます。ヤナギのコートはワインレッドに輝き、オオカメノキは薄っすらと毛をまとい、その姿はバルタン星人のようです。

寒さ対策も、それぞれ個性が光ります。

コートの内も人それぞれ…ではなく樹木それぞれ。春一番に開く葉が包まれているもの、花が包まれているもの、そして贅沢にも葉と花が包まれているもの。冬芽の膨らみを眺めがら春の芽吹きの様子を思い浮かべるのも楽しみの一つです。

いよいよ春です!冬芽がムクムクと膨らみ開き始め、そして薄っすらと緑がかってきます。花が包まれている冬芽では、花びらが顔を覗かせるものもあれば、蕾が顔をだすものもあります。森の小鳥たちの「さえずり」が始まると、静かな冬色の森も色づき、1年で最も明るく賑やかな時が訪れます。

なんともウキウキした気持ちのなるこの時季、冬のコートのお仕事は終わりに近づきいています。包まれていた葉が開くと、芽鱗は目立つことなく枝を離れます。

柔らかな新緑の中、視線をちょっとだけ地面に落としてみてください。落ち葉の間に薄い茶色やクリーム色の小さなかけらのようのものを見つけることができます。それは、冬の間、春に開く新芽を守っていた芽鱗の片です。地面に落ちた芽鱗は春風が吹くと落ち葉と一緒に舞いながら、混じり合い、やがて見当たらなくなります。

新しい命の始まりは「春」からではなく「冬」の間に始まっていたのです。その命を守った芽鱗の役割は春が訪れる時に終わります。