宮城県の離島にみるシカの影響

宮城県の牡鹿半島の先に、金華山という南北5km東西4km位の菱形の小さな離島があります。生息するシカの頭数が、1970年頃から調べられています。大雪などでシカが大量に死んだことが何度かありますが、ほぼ600頭前後で推移しています。この島には、シカの天敵となるような動物はいません。そのため、シカの数を決めているのは、シカが食べている植物との関係だと考えられています。

シカは草本や稚樹を食べます。地面付近の植物は、シバと毒のある植物しか残っていません。シバは、成長点が葉の根元の地面近くにあるので、葉をシカに食べられてもすぐに成長できます。他の植物は、成長点が葉先にあるので、食べられると再生できません。シバは太陽光を遮られると枯れてしまいますが、背丈が高く太陽光を遮るこれらの植物はシカに食べられて減って行きます。これらの植物が減れば、シバは増えやすくなります。さらに、シバの種子はシカに食べられても、表面が傷つくだけで糞となって出てきます。シバの種子は表面が傷ついた方が発芽しやすく、さらにシカに種子を運んでもらえるのです。シバはシカに食べられてもすぐに成長するので、シカにとっては食べても食べても減らないありがたい食料です。このようにして、シバはシカがいることでどんどん増えて広がってゆき、他の草本は減ってゆきます。

樹木の芽生え、稚樹も食べられてしまいます。そうすると、地面付近にはシバと毒やとげのある植物だけで、本来なら中間層を形成する背丈の高いススキなどの草本や低木の藪はほとんどなく、他はシカが増える前から生きていた中高木ばかりという、独特の景観の生態系となります。植物の種類数が減りますから、植物を食べる昆虫や小動物も減ります。それらの昆虫を食べていた昆虫類やクモも減ります。昆虫や小動物を食べていた鳥も減ります。藪がないので、藪で繁殖する鳥も減ります。シカが植物に与えた影響は、連鎖的に動物たちに広がってゆくのです。

シバが増えた影響はシカにも及びます。シバは冬になると枯れてしまうのです。他の植物を食べ尽くしたシカは、冬に食料不足に陥ります。そして、シカの栄養状態は悪くなりました。植物が十分にある地域ではシカは毎年子供を産みますが、金華山ではシカは2年に1度しか子供を産めないほど栄養状態が悪くなってしまいました。金華山はシカが増えすぎた生態系を見せてくれる格好の場です。