ペットショップで命を買わないで⑤

ローズのにおいがしました。たしかにローズのにおいでした。わたしは早くローズに会いたくて箱の中でそわそわしていました。でも、ドアがあいたときそれはいっしゅんにして恐怖へとかわりました。うんちやおしっこのまざった強いにおい。毛がのびきって、からまって・・・どこが顔なのかなんの生きものなのかわからなちじょうたいの犬やねこたちが小さなケージの中にとじこめられています。ケージはさびだらけ。ぬけた毛やうんちがたくさんからまっています。

ゆかに、おしっこやうんちでグチャグチャになったダンボールがかさなっていました。わたしはその中のひとつに入れられました。「ローズ?」「どこにいるの?ローズ?」わたしは、たくさんかさなったよごれたケージの中からローズをさがしました。でもローズのへんじはありません。においはするのに・・・。でもその答えはすぐにわかりました。わたしの目の前のケージのおくに見えた大きな毛玉のようなかたまり。それがローズでした・・・。

 

もう息をしていません。それは、はなれたところからでもわかりました。「ローズ・・・。ローズ・・・。」「どうしてこんなことになっちゃったの・・・」わたしはどうしてもローズの体にさわりたくて手をのばしましたが、ケージのすきまからはとときませんでした。そのとき、部屋のドアがあきあのいやなにおいの男の人が入ってきました。わたしは思わず手をのばした手をひっこめました。そして男の人は、ローズのいるケージのとびらをあけました。そしてローズの体を持ち上げ・・・部屋のすみにあるごみ箱にすてました。ローズは本当にゴミのように・・・すてられてしまいました。「ゴミになったの・・・?」「ローズ?」ローズは苦しかったかな・・・?ローズは淋しかったかな・・・?痛かったかな?悲しかったかな・・・。わたしは涙がとまりませんでした。そのとき・・・どこからか風がふいてきました。ふわふわとなにか舞ってわたしの足もとに、フサッとおちましたわたしが鼻をちかづけるとローズのにおいがしました。白とグレーの毛。

 

それはローズの毛でした。わたしはそのちいさなローズをギュッとだきしめました。それからどんな毎日を・・・どのくらいすごしたのかな・・・。わたしはほとんど覚えていません・・・ただ、とってもおなかがすいていてのどもカラカラで・・・やっと息をしていたような・・・そして、体のあちこちで毛がからまり・・・とってもいたかった・・・それと・・・ローズにすごく会いたかった・・・でも、だんだんそんなことも考えられなくなっていきました。ただ息をしていただけ。ただ息を・・・。そしてわたしは雪のふるさむい夜にゴミになりました。