【夢旅 029】 海から森へ、森から海へ、猫の島へ

東北横断歩き旅 ⑤(最終話)
猫の島に猫が上陸!

日本海側の由良海岸(山形県)からテクテク歩くこと約280km。石巻(宮城県)を経てやって来たのがこの旅の最終目的地である猫の島「田代島」。さほど大きくない船のデッキで日向ぼっこしながらユラユラ揺られて気持ちよく昼寝すること40分。午後1時、ついに猫の楽園に初上陸。こじんまりとした島で、港にはコンビニもハンバーガーショップもドーナツ屋もない。あるのは小さな待合所と青いねこごはんあずかりボックス(原則として猫に食べ物をあげてはいけないので、フード類を持ち込んだ場合は、島の要所に設置されたあずかりボックスに入れようね)くらい。はるばる感がハンパない。
さっきの昼寝中に見た夢では、港にはボクたちを迎えるために島じゅうの猫たちが集まって、「ぽんず家御一行様」ののぼりまではためいていたんだけど…。
アレレレレ〜。
今、港には拍子抜けするほど猫が少ない。田代島には「大泊港」と「仁斗田港」の2つの港があって、どちらかというとここ仁斗田港のほうがネコ率が高いって聞いたんだけどなぁ。まぁ、ちょうど猫がまったりするような時間だからなのだろう。

とりあえず、港の周りを歩いてみたら、チラホラと島猫たちに出会った。やっぱりみんなまったりしてた。港近くの公園のベンチで海を見ながらくつろぐ猫、道端で居眠りする猫、民家の軒先で「なんなの? 今めっちゃ眠いんだよ。」と不機嫌そうに睨む猫。ごめんね、邪魔するつもりはないんだ。小さな島で自由に暮らす猫たちがいるって聞いたから会いにきただけなんだ。君たちがどんなふうに暮らしているのか、ちょっとでも知りたいと思ってね。1日や2日で分かることなんてたかが知れてるとは思うけれど、ボクは同じ猫として、リアルに自由に生きる君たちの姿をひと目見ておきたかったんだ。都会の野良猫と何が違うのか、元野良猫として知っておきたかったんだ。

昼寝の邪魔をされると「シャーッ!」って怒られる前に港近くの集落から離れた。森の中を1時間くらい歩いただろうか。偶然、岬の先端の小さな広場のようなところに出たんだ。目の前は海、右を見ても海、左を見ても海。水・トイレなし、人も猫も見あたらない。抜群にいい景色だ。もうこの日の宿はここで決まり。この日は少し風が強かったので、都合よく広場にあったあずまやの中にテントを張った(あずまやは雨よけ風よけになるんだ)。
明日はこの旅の最終日。もっとたくさんの島猫たちに会いに行こう。
波の音が心地よく、怖いケモノもいない快適な野宿。早朝から昼まで休みなく約35kmを歩いたボクたちは夜の8時には寝てしまった。

翌日は強かった風もおさまり穏やかに晴れた朝を迎えた。4時起床。帰りの船は午後なので、時間はまだたっぷりある。5時半にテントを撤収して出発。まずは「猫神社」に向かう。

猫神社は、島の真ん中あたりの高台にある神社で、猫神様が祀られているとのこと。ここの猫神様にはちょっと悲しい伝説があるんだよね。
その昔、この島では猫たちの行動で天気や漁の良し悪しを測ってたんだって。で、ある時、この島で盛んな網漁で錨の代わりに使う岩を崩していたら、運悪く岩の一つが猫に当たって、その猫が死んでしまったそうな。島で大切にしていた猫を死なせてしまったことを哀れに思った漁師の総元締が、亡くなった猫をねんごろに葬り、それが猫神様になったんだって。猫神様は今、島と猫の守り神として崇められてるんだ。もちろん、ボクも猫神様にお参りして大事なお願いをしてきた。「ホーリーがポンコツじゃなく、ちゃんとボクの役に立つ執事になりますように。」ってね。

猫神社ではリードを着けて散歩する猫にも出会った。名前は「サバミソ」。海に囲まれた島の猫っぽい名前だよね。でも、飼い主の男性は島の人じゃなくて、鹿児島出身でいろんな仕事をしながら車で全国を放浪している超自由人。数ヶ月前にこの島に来て、猫神社の近くの「島のえき」などで働きながらサバミソと暮らしてるんだけど、猫が縁で恋が芽生えちゃって、近々結婚するとかしないとか。いやぁ、やっぱ、猫を大切にするといいことあるねぇ。ボクたち猫は、チョイチョイっと紐を結んじゃったりするけど、縁だって結んじゃうんだ。みんな、くれぐれも猫を大切にするように。

田代島の人口は54人(令和4年3月末)。それに対してこの島の猫口は人口の3倍近く。でも、この島に動物病院はないんだよね。島猫たちはフードの寄付などがあるから食べるものには不自由していないみたいなんだけど、なんたって外で自由奔放に暮らしてるからいろいろあるよね。猫同士でケンカすることだってあるだろうし、暖かい季節にはノミやダニがつくことだってある。島を歩くと「キミたちぜったい兄弟だよね。」ってくらいよく似た猫たちにちょくちょく出会うけど、それって、狭くて閉ざされた離島っていう環境だからなんだろうね。そういう猫たちの中には、目ヤニがひどかったり毛艶が悪かったり、部分的に抜け毛が激しかったりして、一見元気そうなんだけどなんか病気なのかなぁ、って思うような猫もいるんだよね。もしかしたら、遺伝的な原因があるのかもしれないなぁ。

島の人の話だと、島猫たちの寿命は大体5年くらいなんだって。ボクのように外に出ない猫の場合の平均寿命が16.02歳(2022年 ペットフード協会調べ)だから、島猫はその3分の1以下ってことになる。あまりにも短い一生だよね。子猫の生存率も20%くらいなんだって。
でも、彼らは島の人に大切にされてるし(島では犬を入れない、犬を飼わないという暗黙の了解がある)、都会の猫より穏やかに暮らしてるように見えたなぁ。ただ、猫の楽園というよりも猫にとって厳しいリアルがギュッと詰まった「いのちの現場」的な場所なんだと思う。だから、ただブームに乗ってカワイイもの見たさに島を訪れるんじゃなく、思わず目を逸らしたくなるような病気の猫や汚れた猫、傷ついた猫など、リアルな「いのち」をちゃんと見てほしいなぁ、と、猫のボクは思う。

なんか、旅の終わりに急にマジになっちゃったけど、シンドイ思いをして長い距離を歩いたり、危ない思いやヤバイ野宿をしたり、ヒリヒリするようなリアルな「いのち」を感じることができた今回の旅は、ホントいい経験だった。ズルして電車に乗ったりしないでよかったよ、マジで。
ホーリー、あのときケツで返事してくれてありがとねー。  〜完〜

<旅の10日目>
天気:くもりのち晴れ
行程:海辺の公園〜陸前富山〜陸前小野〜航空自衛隊松島基地〜門脇小学校〜船着場〜田代島
歩行距離:約35km
宿 :三石広場(田代島)で野宿

<旅の11日目>
天気:晴れ
行程:田代島〜石巻船着場〜我が家