【夢旅 028】 海から森へ、森から海へ、猫の島へ

 

 

 

東北横断歩き旅
雪の峠を越えて出羽から陸奥へ。そして、ついに東北横断完歩!

ホーリーとふたり、往復2,030段の階段にひーひー喘ぎ、仏さまににさんざん悪態をつきながら登り降りした山寺を参拝した翌日は峠越えをして出羽の国(山形県)から陸奥の国(宮城県)へ。前日の山登りで全身バッキバキに筋肉痛なのに、またしても登り。しかも、峠の近くにはまだ雪が残ってるかもしれないって、知らないほうがよかったかもしれない山菜採りのおばちゃん情報付き。ゴールデンウィークなのに雪。うねうねと続く長〜い登りの先に雪があるだなんて。あ〜ヤダヤダ。山の向こう側までズバッとトンネルが貫いてくれてたらいいのに。てか、やっぱ電車に乗ろう、乗らねば、乗るべきだ。

「ホーリー、雪道は危ないから電車で越えたほうがいいよ。」

「ブッ!」(ホーリーの歩きっ屁の音)

「 ハイハイ分かりました。歩きゃいいんでしょ。って、ケツで返事すな! 」

ということで、峠越えに取りかかる。唯一の救いは、この峠道は雪がなくなるまでの間は車両通行止めになってて車が通らないってこと。車が通らないっていうのは本当にありがたいことなんだ。この国の道路は、歩く旅猫のことなんてこれっぽっちも考えられていないような仕様になってて、この旅でも、すぐ横を轟音をたててトラックが走る国道を命がけで歩いた。道路ってもんは車が走るところだって言われればその通りなんだけど、全ての道路が「車だけ」のためにあるわけじゃないよなぁ。「猫だけ」とは言わない。せめて、旅する猫が安心して歩けるような道路が少しはあるといいのだけれど。

で、峠道はうねうねウネウネと登っていく。歩いて歩いて登って登って、ヘアピンカーブを曲がって、また歩いて歩いて登って登って。ってさぁ、全然前に進んでる感じがしないんだよなぁ。確かに高くまで登ってはきてるけど、おんなじところをジグザグに行ったり来たりしてるだけって感じなんだよなぁ。エンドレス峠道。

いいかげんこの進んでる感のない峠道にウンザリしてきたころ、遠くに雪山見えるじゃん、もうすぐてっぺんの二口峠じゃね、って思っちゃうくらい高く開けた場所に出た。しか〜し、喜んだのも束の間。アスファルトの道は雪の道に変わり、徐々に道が斜めになって雪道が山の斜面の一部と化してきた。滑るは冷たいわで危なくてしょうがない。右が山の尾根で左が谷へと落ちる雪の斜面。でもまぁ、足を滑らせてもせいぜい十数メートル転がってやぶの中に落ちる程度だから命の危険はない。とはいっても、ボクは猫だから雪まみれになるくらいだけど、ホーリーはかなり痛い目にあうだろうなぁ。そんな危なっかしい道を2時間近く歩いた頃、ようやく二口峠に着いた。山形県から宮城県へ。日本海側の県から太平洋側の県に入ったわけだ。ここからは海に向かって下っていく。

この日は野宿場所がなかなか見つからず、夕方の5時を過ぎてようやく川の近くに車数台分の開けたスペースを見つけてテントを張った。すぐ近くに「!」付きで「熊出没注意!」の看板があったけど、気にしない。今までいろんな場所で似たような看板に出くわしてきたけど、クマのクの字も出たことないんだもん。ここも大丈夫。ボクは猫だし。

で、夜中にウトウトしているとやぶをかき分けるガサガサいう音が。何者かがテントの周りをグフグフと嗅ぎ回ってるじゃありませんか。こんな夜中に山菜採りの人なんて来るはずないから、ケモノであることは確かなんだけど、それが何かは分からない。でも、薄いテントの生地を隔てて数十センチのところになんかいる。テントの生地なんて、爪を立てれば猫だって簡単に破ることができちゃうはず。もしクマだったら…。例の看板を無視して野宿したことをめっちゃ悔やんだ。ケモノはすぐ近くでグフグフしてる。どーする、ボクたち。テントから飛び出る勇気なんて、ないない。

ピーーーーッ、ピーーーーッ、ピーーーーッ!

突然、テントの中に甲高い音が鳴り響いた。スッゲーびっくりして尻尾がパンパンに膨れ上がったんだけど、音の出どころはホーリーだった。旅の間ずっと首からぶら下げてたエマージジェンシーホイッスル(100均で買った)を鳴らしたんだ。
直後、ドドドッっていう足音がしてケモノは去っていった。やぶをかき分ける音や足音から想像すると、それなりのサイズのケモノだとは思うけれど、なんだったのかは謎のまま。

これからは「熊出没注意!」の看板の近くで野宿するのはやめようね、と、ふたりで誓い合ったことは言うまでもない。そして、浅い眠りのまま夜明けを迎え、5時半にはテントを撤収して出発した。気温5℃。ゴールデンウィークも後半、いくらなんでも寒すぎだろ!

この日は国道を歩いて仙台の街中を抜けた。東北随一の都会だけあって人も車も多くて目が回りそう。人なんかひとりもいなくて、ケモノが寄ってくるような怖い夜を過ごしたばかりだというのに、もう自然の中が恋しくなるんだから不思議だよなぁ。もしかしたら、この世で一番怖いのは人間なのかもしれないなぁ、なんて猫のボクは思ってしまう。

休むことなく歩き続けて仙台の郊外にある大きな公園で野宿。トイレ、水道、例の看板、人の気配、全部「なし」。ケモノのせいで寝不足のボクたちは、この夜、自然に囲まれて穏やかに爆睡した。

翌朝は4時に起きて早めに出発。歩きの旅もいよいよ終盤。この日は日本三景のひとつ「松島」まで歩き、海辺の公園で野宿。翌日は、この旅の歩きのゴールに定めた石巻を目指した。目的地は、旧北上川の河口にある船着場。この日のうちに猫の島「田代島」に渡りたいので、時間を気にしながら歩いた。途中、ブルーインパルスの基地として知られている航空自衛隊の松島基地のそばをワクワクしながら歩いたけれど、青い飛行機は飛ばなかった。

石巻は、2011年3月11日のあの日、市の中心部の高台を除くほぼ全域が津波に襲われたという。そして、このエリアだけで2千人以上の人が亡くなっている。人だけじゃなく、たくさんの猫や犬などの動物たちも津波に飲みこまれたたんだろうと思うといたたまれない気持ちになる。胸がキュッとなる。
歩く道沿いには津波で壊された小学校や、コンクリートの土台だけが残された家の跡があった。道の両側にお墓がつくられている場所では、立ち止まって手を合わさずにはいられない。

そんな中、工事中の敷地の地面に「復興するぞ!」と大書きされた文字を見た。「あのとき」を直接経験したわけじゃないボクたちだけど、なぜか心にジンジン響いてきて立ち止まって見入ってしまった。ボクたちの想像をはるかに超えた悲しみや苦しみや絶望の壁を割って出てきたこの言葉、この光景はずっと忘れないと思う。

次回はいよいよ東北横断歩き旅の最終回。猫が猫に会いに猫の島に行くよ!

<旅の7日目>
天気:晴れ
行程:山寺(立石寺)〜二口峠〜秋保ビジターセンター〜深野橋近くの駐車スペース
歩行距離:約32km
宿 :名取川の河原に設けられた駐車スペースで野宿(夜中に事件発生!)

<旅の8日目>
天気:晴れ
行程:ケモノ事件発生現場(野宿場所)〜仙台市街〜県民の森
歩行距離:約40km
宿 :県民の森で野宿

<旅の9日目> ついに太平洋へ。東北を歩いて横断したぞ〜っ!
天気:薄曇りときどき小雨
行程:県民の森〜石田沢防災センター〜松島〜海辺の公園
歩行距離:約30km
宿 :松島の海をのぞむ海辺の公園で野宿

<旅の10日目>
天気:くもりのち晴れ
行程:海辺の公園〜陸前富山〜陸前小野〜航空自衛隊松島基地〜門脇小学校〜船着場〜田代島
歩行距離:約35km
宿 :三石広場(田代島)で野宿