【夢旅 027】 海から森へ、森から海へ、猫の島へ

東北横断歩き旅 ③

 

心拍数爆上がりの野宿。茂みにうごめく “黒いもの” とは

 

朝4時に起床。空は灰色の雲で覆われどんよりとして寒い。メーデーのきょうは雨の予報が出ていて朝からちょっと気が重い。ダメ元でホーリーに「雨の中、国道を歩くのはイヤじゃん。だから電車に乗っちゃおうよ。」って言ってみたけど、あっさり断られた。ホーリーって、歩き旅になると律儀に歩きにこだわるんだよなぁ。電車に乗れば楽なのにさ。

 

道の駅に人が集まる前にテントを撤収して、5時半に渋々出発。駅とは反対方向に歩き出した。きのうに引き続きトラックが轟音をたてて走る国道を歩き出してすぐ、自転車に乗ったおばあさんにご挨拶。農作業に行く途中のおばあさんは、東北訛りの言葉のうえに歯が抜けてるから何を言ってるのか半分くらいしか分からないけど、「気をつけてなぁ。大したもんだなやー、がんばれやー。」(たぶん、そう言ったんだと思う)とボクたちを励ましてくれた。1時間ほど歩いたところで県道との分岐に出た。もちろん、迷わず県道を進んだ。やった、トラックぶんぶん国道とオサラバできる。国道はもうこりごりだよ。

 

気温は10℃。ちょっと寒いけど、車の音が徐々に遠ざかっていくのがウレシイ。近くでウグイスがたどたどしく鳴いている。リュックに鈴をつけたおじさんが山に入って行く。もしかしてこの辺にクマがいるのかなぁ。トラックの次はクマかぁ。もしクマに出会ったら、ホーリーを置いてさっさと逃げよう。

 

最上川の左岸をしばらく歩いたあと、森をかき分けるようにして続く山の中の道を行く。いつクマが出てきてもおかしくないような道で、ボクたちは超ビビリながら歩いた。そして、山の中を3時間くらい歩いたところでふいにそば屋が現れた。大石田町にある藁葺き屋根の「わら口そば屋」だ。山形県はそばが有名だけど、この町は環境省から「大石田町そばの里」として認定されているんだって。ちょうどお昼時なので店内へ。猫のボクは肉食だからそばは食べないんだけどね。

そば屋を出てしばらく歩き、最上川を左岸から右岸に渡って冷たい風が吹く中を歩いた。朝の5時半から10時間近く歩いているので、いいかげん肉球がジンジンしてきた。足の小指のマメが巨大化してめっちゃ痛いってホーリーがぼやきはじめた頃、ようやく最上川を見下ろす高台にある公園に出た。水もトイレもなく、地面も少し傾斜していて野宿場所としてはあまりよくないけど、これ以上歩くのはごめんなので、ここがこの日の宿だ。それにしても、きょうは一日よく歩いた。大したもんだなやー。

 

なんて、テントを張って渋々ながらも一日を歩き切った自分を褒めていたら、突然、すぐ近くのやぶでガサガサバキバキと音がしたんだ。ふたりともギョッとして目を向けたら、なにやら黒いものが動いてるじゃありませんか、人間の背丈ほどの黒い生き物が。

ぎょええええええ〜っ、まじぃぃぃぃぃ〜、ク、ク、クマぁぁぁぁぁ〜!

ホーリー、あんた、なんでこんなとこ選んだんだよ。人なんか来そうもない高台だし周りは森だし。トラックに轢かれそうな国道歩いたり、いかにもクマが出そうな山ん中歩いたり、あんたのリサーチ能力と危機管理能力は限りなくゼロだな。って抗議してる場合じゃなくて、ど、どーするよ。いざとなったらさっさとホーリーを見捨てて逃げるつもりだったけど、いざってときがいきなりきたら固まっちゃうんだね。動けないんだ。黒いものに目が釘付けになったまま置物の猫になったみたいにオスワリの姿勢のままフリーズしちゃったんだ。あれがクマで時速50kmで走ってこられたらほんの数秒でテントまで来ちゃうよな、ホーリーを盾にしたらもしかして逃げられるかな。なんて考えながら動けずにいた。ところが、来ないんだ、黒いヤツは。相変わらずガサガサバキバキやってるんだけど、近づいてくる気配がない。で、なんかヘンだなって思ってよくよく観察してみたら、細い手のようなもので木の枝の先を折ってるみたいなんだよね。ん? もしかして、人? 黒いシャツ着たおっさん? だよね。

ザケンナヨ、なんだって黒い服着て茂みに入るかなぁ。ガザガサバキバキやるかなぁ。こっちはどんだけビックリしたか。心拍数爆上がりじゃねーかよー。と、心の中で猛抗議した。

どうやら、黒いものの正体は、地元の人がタラの芽か何かを採っていたらしい。なんとも猫騒がせなおっさんだ。

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クマとの遭遇かも事件のあった翌日は村山の市街地を抜け、花が満開のさくらんぼ畑を見ながら将棋の街天童を通って山寺へ。

 

山寺(宝珠山 立石寺)は、松尾芭蕉の「閑さや 巌にしみ入る 蝉の声」の句で有名な山の上の寺。あのね、ホントに山の上なの。うんざりするほどの階段を登らされるの。1,015段もあるの。この旅の初日に登った神社の階段なんて軽く笑い飛ばせるくらいキツイわけ。で、1,015段登ったら1,015段降りなきゃならないわけ。上り下りで2,030段。この階段を上り下りするほうもどうかしてると思うけど、なんだってこんな山の上にお寺を造っちゃったんだろうね。前にも言ったけど、仏さまってドSだよね。

 

次回はこの旅のクライマックス、山形県山形市と宮城県仙台市の境界にそびえる峠越えのお話だよ。それじゃ、また来週!

<旅の4日目>

天気:くもり

行程:道の駅とざわ~最上川左岸~わら口そば屋~最上川右岸~虹ヶ丘公園

歩行距離:約35km(疲れた…)

宿 :虹ヶ丘公園。広場(?)のようなところにテントを張る。トイレ・水道なし

 

<旅の5日目>

天気:晴れ

行程:虹ヶ丘公園〜村山市街〜さくらんぼ東根駅〜天童市街

歩行距離:約30km

宿 :ホテル(この旅に出てはじめて布団で寝た)

 

<旅の6日目>

天気:晴れ

行程:天童市街〜山寺(立石寺)

歩行距離:約12km

宿 :ホーリーの知人実家(酔ったホーリーが熱唱。うるさい!)

 

<旅の7日目)

天気:晴れ

行程:山寺(立石寺)〜二口峠〜秋保ビジターセンター〜深野橋

歩行距離:約32km

宿 :名取川の河原に設けられた駐車スペース(夜中に事件発生!)

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