【夢旅 024】 桜舞い散る公園で

 

 

 

 

注射打ったか?

ワワワン、ワン! ウ〜、ワンワン!(ワに「 “ 」付きで表現できないのが残念…)
ってさぁ、なんでまた吠えるかなぁ。もう何度も会ってるし、一緒に散歩だってしてるじゃん。ボクは猫だから犬語がわからないけど、怒ってるわけじゃないんだよね、何か気になることとかなんかヘンとかアンタうざいとか訴えてるんだよね、キミは。それはちゃんと伝わってる。でも、なに言ってるかまではわかんね。

犬が吠えるのを「ムダ吠え」なんて言う人もいるけど、キミたち犬はけっしてムダに吠えたりはしない。どんな場合でも吠えるのにはちゃんとした「理由」があるんだよね。
もしかして、ボクが猫くさいのが気に食わないのかなぁ。それとも、ボクの少したるんだお腹のことバカにしてる? それにしたって、その全力吠えはないよなぁ…。何度も会ってる相手に猛烈に吠えられるとさすがに凹むんだよねぇ。

いつだって会った瞬間から吠え始めて、そのあとたっぷり1時間は吠え続ける。そんな「知り合い以上友だち未満」の犬は「こまさん」。ポメラニアンの女子。まだ3歳。年下の小娘のくせになにかと上からな物言いをする。特に、ボクがうっかり手ぶらで会いに行ったときの抗議はかなりキツイ。「アンタ、鹿ジャーキーくらい持ってきなさいよ。気がきかないわね。」ってことなんだろうか。しかも、最近になって弟分ができてお姉さんぶりたいもんだから、文句にも力がこもってきた。弟分の名は「しま」。まだ1歳にもならないぺーぺーの若造だ。

今回、こましまペアが「花が見たい! 散歩したい! ドッグランで走りたい!」って言うからお供をしてやって来たのがここ、国営昭和記念公園。もちろん、彼らと「友だち以上」になりたいっていうシタゴコロもたっぷり持ってきた。
のに、のに、なのに、ワワワン、ワン! ウ〜、ワンワン! って、マジ凹むなぁ…。

 

春の公園は花ざかりでめちゃくちゃ気持ちがいいんだ。まだ桜の花が少し残ってて、風が吹くと花びらがヒラヒラ舞って蝶が飛んでるみたい。猫のボクはついつい狩のスイッチが入って花びらを追いかけ回しちゃう。そんな桜が舞い散る散歩道を歩くと、次は菜の花畑に出るんだ。ボクたちは黄色いジャングルの中を泳ぐようにして歩いた。こまさんは女子っぽく花のニオイを嗅ぎ、ボクは風に揺れる花をチョイチョイと軽く猫パンチしながら歩く。最後尾を歩くしまは花なんかには興味がないらしく落ちているものを片っ端から口に入れている。コイツはやめろと言っても拾い食いをする。クサイものでも食べちゃう困った若造だ。

菜の花畑の次はチューリップ畑のおでまし。ここにはいろんな色の花があるらしい。「チューリップっていろんな色があるのね。」って太ったおばちゃんが言ってた。なんで「らしい」なのかっていうと、ボクたち犬猫に見える色は人間とは違うから。そのことについてはいずれ改めて話しをするね。

花畑はすんごく広〜い芝生の広場の周りにあって、広場の真ん中には「この〜木なんの木気になる木〜」って感じの大きな木があるんだ。テッペンまで登ったら天下取ったように気持ちいいんだろうなぁ。登りたい。あ〜、でも今回はガマン。木の肌に爪を立てたくなる衝動をグッと抑えてドッグランへ。

 

で、ドッグランに着いたんだけど、ここでハタと気づいてめちゃくちゃ焦った。なんで焦ったかっていうと、ボクは猫なんだ、で、ここは “ドッグ” ラン。とりあえず注意書きの看板を読んでみる。当然、猫が入っていいとは書いていない。でも、ダメとも書いてない。こういう場合は、都合よく解釈するに限る。ダメじゃないってことはいいってこと。よし、入っちゃおう。
それで、ゲートを通ろうとしたら、メガネのおばちゃんが「狂犬病の注射は打った?」って聞いてきた。こましまは「もちろん打ってるよ!」と元気よく応答。ボクは「???」。狂犬病ってなに? それ、鹿ジャーキーよりおいしいの?

 

狂犬病がなんだかさっぱり分からなかったボクは、結局ドッグランには入れなかった。生意気な小娘のこまさんが「アンタ、バカじゃね?」感満載のドヤ顔で狂犬病について話してくれた。

狂犬病は、発症したらほぼ100%の確率で死に至るコワ〜イ感染症。しかも、動物から人間に感染することもある「人獣共通感染症(ズーノーシス)」なんだって。日本はいま、狂犬病がない清浄国に認定されてるけど、かつては狂犬病でたくさんの動物や人が亡くなったっていう歴史があるんだそうだ。ニホンオオカミが絶滅した原因のひとつにも狂犬病が挙げられてるんだって。狂犬病が日本で最後に確認されたのが1957年。そのとき狂犬病になったのは、な、な、なんと、犬じゃなくて猫。狂 “犬” 病っていうからてっきり犬だけがかかるもんだと思ってたら大間違いだよ。狂犬病は哺乳類全般に関わる感染症なんだってさ。猫だからって油断できないってこと。日本の法律(狂犬病予防法)では、犬は毎年ワクチンを打たなきゃいけないってことになってるみたいだね。なるほど〜、それでさっきのおばちゃんが注射打ったかって聞いてきたんだなぁ。でも、猫は打たなくてもいいらしい。(よかったぁ〜)
だからって無関心でいちゃダメなんだ。だって、ほんの一部の国や地域を除いて、ほぼほぼ世界中どこに行っても狂犬病はあるし、世界では毎年5万人以上の人が狂犬病で亡くなってるっていうから。狂犬病って、ホント怖いよね。

おい、犬ども、
風呂入れよ。歯、磨けよ。爪、切っとけよ。風邪ひくなよ。狂犬病の注射、打っとけよ。
また来週!